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魔石の行方 後編


「あんなの落とされたら悪魔だって死んじゃうのに、あの獅子顔の奴なに考えてんのっ?」


地上の皆んなは戦いに気を取られていて気付いていない。恐らくベルセベトは道具の一つとして冥府にいる悪魔達を連れてきたのだ。上空から目を逸らさせるために……

ルッキーはジンさん達に知らせてくると言って駆け出して行った。


このままでは王都が壊滅状態になるのは間違いない。

なんとかしないと……



「貴女に魔王の魔石を返せばアレをなんとかしてくれるの?」



クリーデル王女が厳しい口調で私に尋ねてきた。

魔王の魔石は大気を操る最高峰の魔石だ。

父ならばその力を使い、あんな火の玉など卵を割るように簡単に握りつぶしていただろう。

今までなら私にはそんなことは出来ないとはなから諦めていた。


でももう、これ以上……

ベルセベトの好きにはさせない。




「やってやるわ。私にだって意地がある!」




だって私は、魔王だから─────────!



クリーデル王女が力強く私の手を握った。


「聞きたいことは山ほどありますが、今は貴女のことを信じます。」


護衛の兵をその場に残し、クリーデル王女は私と二人だけで王様のコレクションルームがある最上階へと向かった。

どうせ父は許してはくれないでしょうから、黙ってかっぱらいましょうと王女らしからぬことを言っていたのだが……

最上階に着くと驚くような光景が広がっていた。

廊下に第一兵団である鎧兵達が息も絶え絶えな様子で倒れていたのだ。

嫌な予感がしてコレクションルームへと向かうと、壁には大きな穴が空いており、王様が焦点の合わない目で立ちすくんでいた。


「お父様?一体どうなされたの?!」

「と、突然悪魔がっっま、魔王の魔石をぉお!イーヒッヒッヒッ、ヒィヒー!」

あまりの恐怖で正気を失ってしまったようだ。

空いた穴から外を見ると、城を守っていた幾重もの防御壁が破られていた。

こんなことが出来るのはベルセベトしかいない。先を越されてしまったのだと、愕然とした。



「太陽が落ちてきたぞ──────!!」



空一面を真っ赤に燃え尽くさんばかりの超巨大な火の玉が地上へと近づいてきていた。

放たれる熱は(やいば)のようで、まだ遠く離れているのに容赦なく肌に突き刺さってきた。

誰もが為す術なく見つめるしかない絶望の中で、火の玉目掛けて真っ直ぐに飛んでいく人影が見えた。

あれはっ……パウロさんだ……!!


パウロさんが両手を広げて防御魔法をネットのような形に編み込み、落ちてくる火の玉のスピードを受け流すようにして柔らかくキャッチした。

地上にいた人間や悪魔からも、喝采の叫び声が上がった。



「これを受け止めるとは。人間にしてはなかなかやるな。」



ベルセベトがうすら笑いを浮かべながら上空から現れた。


「やあこれ君の?女性へのプレゼントにしてはちょっと重すぎなんじゃないかなあ。」

「面白いことを言う男だな。まあそのへらず口がどこまで持つかは見ものだな。」


パウロさんは爽やかにニッコリと微笑み返したものの、熱さと重量で汗が吹き出し、魔法を支える両腕も小刻みに震えているのが見て取れた。


ルッキーや他の魔法士が地上から加勢しようと防御魔法を放つが、熱にやられて歯が立たない。

ジンが真空切りで火の玉を真っ二つに割るが、それも直ぐにくっついてしまった。

編み込んだ防御魔法もジリジリと溶けて穴が空き始め、パウロさんの体にも火がつき始めた。

ベルセベトは王都から脱出しようと駆け出した者に対して容赦なく火を放った。

一人残らず焼き尽くす気だ。




またあいつは私から全てを奪うの?

魔界からは戦わずして逃げたけれど……

ここは、ここでのジンや皆んなとの世界だけは奪われるわけにはいかない!



「これはこれは。魔王自らご参上ですか。」



ベルセベトがゆっくりと振り向いた先には、黒い羽根を大きく広げて宙に浮かぶ私の姿があった。

魔王と呼ばれ、隠していた私の正体の全てが公の元に晒されてしまったけれど、そんなことはもうどうだっていい。

ベルセベトに、己の力を誇示するように対峙した。


「あの火の玉を今すぐ消して。その代わり、貴方に魔王の座を譲るわ。」

「それは私に心臓を差し出すということで宜しいかな?」


私が静かにうなづくと、ベルセベトは満足気に口元を緩ませながら懐から魔王の魔石を取り出し、もう片方の腕を私の胸の前にかざした。



「モモ、止めろ!!」



地上からジンの悲痛な叫び声が聞こえたけれど、私の覚悟はもう揺るがない。

微動だにすることなく、ベルセベトの鋭い爪がズブズブと体内に入ってくる激痛を受け入れた。



「これで魔王の座もこの魔石の力も、全てが私のものだ!!」



強欲の塊のような醜い顔で私の心臓を掴むと、その表情が固まった。

心臓をえぐり出して生き血を吸いたいのだろうけれど……そうはいかない。



「ベルセベト……貴方って、同じ手に二度引っかかるのね。」



ルッキー特製の体内に張る防御魔法により、私の心臓は守られていたのだ。

胸にめり込んだベルセベトの腕を両手で掴んだ。


「なにをする気だ?!離せっ!!」

「油断したわねベルセベト。私と貴方が繋がってるってことは、私と魔石も繋がってるってことよ!」



私には覚悟が足りていなかった。

魔王なんてなる気なんてなったし、押し付けられて迷惑とさえ思っていた。

今までの歴代の魔王達の魔石への思いを蔑ろにして、私には運がなかったのだと簡単に手放してしまった。


でも今は違う。

人間達から大切なことをたくさん学んだ。


私はこの世界を守りたい。

大切な人を守りたい。


だからお願い……



どうか私にも




魔石(あなた)の力を──────────!!







ベルセベトの手に握られていた魔石が光り、意思を持つかのように空中に浮かび上がった。


「これは一体……?!」


淡く輝き始めた私の体に、ベルセベトが恐れおののいた。

魔石の力が体に流れ込んでくるのが分かる。地面の湿っぽさ、街の造形、動物の息遣い、空の広さまで……

大気を通じて、この世界のあらゆるものが手に取るように頭の中に鮮明に浮かび上がってきた。

そう感じた次の瞬間、ベルセベトを地面に叩きつけた。


なにが起きたか分からないベルセベトは、地面にめり込んで血塗れになりながらもモゴモゴと顔を上げた。

目の前には、魔王の魔石を手にした私が立っていた。


「まさか……おまえのような小娘にその魔石を使いこなせるわけがない!!」


別に今さらベルセベトに認められようなどとは思わない。

言えることはただひとつだけ。

自分でも驚くほどの冷酷な口調で相手に告げた。




「ベルセベト。おまえは私を怒らせた。」




私から放たれる殺気に怖気付いたのか、ベルセベトは喉から空気が通っただけの声にならない悲鳴を上げた。

なんとか起き上がろうともがくベルセベトの上に、さらに何トンもの空気の層を重ねた。

火の玉にも四方八方から圧力をかけて散り散りに吹き飛ばした。

逃げ出そうとする悪魔達も次々と地面に叩きつけ、何千人もの悪魔を一瞬にして鎮圧した。

その様子を見たベルセベトは、興奮しながら目を輝かせたのだった。


「まさかこれほどとは!素晴らしいっ!先代と同等、いや、それ以上だ!それでこそ我が主に相応しいっ。魔王様、これからは一生お仕えさせて頂きます!!」


ベルセベトがいなければ私は魔界で一生を終えて気づくことなんてなかっただろう。

それにはある意味感謝する。

だが散々周りの者を裏切って傷つけておいて、今さらなにを都合の良いことをほざいているのだ。

腹が立つことこの上ない。




「思い上がるな、外道(げどう)。」




ベルセベトの上に何百トンもの空気を落として圧死させてやった。随分と呆気ない。もっと苦しめてやれば良かった。

1mmにも満たない薄さになった体は原型など留めるはずもなく、血や肉片が辺り一面に飛び散っていた。

私の体にもへばりついたが、特になにも感じなかった。

だがまだこれで終わりではない。




「魔王命令だ。おまえら全員死ね。」




捉えていた悪魔全員にも圧をかけた。

泣き叫ぶ者や助けを乞う者もいたがどうってことはない。

次はなぶり殺しにしてやらねばとジワジワと圧をかけていった。




「──────────モモっ!!」




いつの間にかジンが私の両肩を抑えて目の前に立っていた。



「……もういい、止めるんだ。」



力なく首を左右に振るジンを見て、そこでようやく自分の行為が逸脱していたことに気づいた。


周りには私を見つめる幾つもの怯えた目があった。

クリーデル王女も私にくっついて離れなかった子供達も、ルッキーやパウロさんまでも……


私を見る目が、悪魔を見る目に変わっていた。



温かな人間界の生活や仲間に触れ、あたかも自分がその世界の住人になったような気がしていた……



「殺されるくらいなら、冥府にいる方がマシだ!」

「もう逆らいませんので、命だけはご勘弁を!!」

「誰だよ?!次の魔王がチョロいなんて言ったのは!とんでもねえ化け物じゃねえか!!」


悪魔達が(せき)を切ったように魔界へと戻って行った。

私はなにも命令などしていないのに、全員私を恐れて競い合うように王都からいなくなった。



所詮私は、どう足掻こうが悪魔なのだ。

悪魔の中の王、魔王なのだ。


ならば魔王として、人間にした非道な行いを詫びなければならない。



「無礼を仕った。許して欲しい、人間の王よ。」


「………モモ?」




私とジンは、本来ならば仲良く同じ家で暮らすようなことをしてはいけなかったのだ。



「人間の王よ。結界を新たに造り直そう。」



ジンは訳が分からないといった顔をした。

あそこまで歪みが巨大化してしまっては通常行っていた維持のやり方では穴を塞ぐことは不可能だ。

もう一から造り直すしかない。

大陸に延々と横たわるあんな巨大なものをどうやって造り直すのだと誰もが思うだろうが、今の私にならそれが出来るという確信があった。


「私は魔王城に戻る。貴方はフィージャにある元々王の城として使われていた屋敷に迎え。あの場所には意味がある。」

「モモ、待ってくれ。なんでそんなに他人行儀なんだ?分かるように説明してくれ!」


戸惑うのも無理はない。

ジンにとっては今の私は中身が変わってしまったように見えているのだろう……



「その白い魔剣こそ、この魔王の魔石の片割れだ。」



その魔剣から放たれる空間切りは、大気を操ることの出来る魔王の魔石の力により成せた技だった。



「私が魔界で導く。貴方はその屋敷で日没とともに剣をかかげてくれれば問題ない。」


ジンは腰に差した魔剣に視線を落とすと、迷いながらも分かったと深くうなづいた。



「モモ……また会えるんだよな?」



その質問には答えずにジンに背を向けた。


新しい結界が完成してお互いにきちんと維持を続けていれば歪みはもう起きない。

魔界と人間界は完全に分離される。


それが本来の正しい形。


これでいい。




さようなら、ジン………





日没まではもう時間がない。急がねばと羽根を広げた時、背後でジンの声がした。

私はそれを振り切るように羽根を大きく羽ばたかせて空へと飛び立った。



そんな………

そんな言葉、かけないで。




──────俺はまた会いたい──────





胸が苦しくて、流れる涙で視界が真っ白になった。






太陽が完全に地平線へと沈んだ。

約束通り……魔界と人間界とを区切る新しい境目となる結界が、私達の間に横たわった。











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