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魔石の行方 前編

王都は街全体が強固な防御魔法が施された城壁で守られており、さらにその周りを何万もの兵士で取り囲んでいた。

地方の治安を無視したとんでもない愚策だったのだが、今回の事態を考えれば全兵力を王都に集中させていたことは功を奏したのかも知れない。

しかし、王都に近づくにつれ現状が見えてきた。



「駄目だ……城壁が突破されてる……!」



強固なはずの城壁はすでに悪魔により破壊されていて、街中のいたるところで噴煙や火の手が上がっていた。

住民は教会や学校などの防御壁が成された場所に避難してはいるものの、悪魔達はそこをも破壊しようと群がっており、それを阻止しようとする兵士との激しい攻防戦があちこちで繰り広げられていた。


「おい人間もっとかかってこい!弱っちいなあ!」

「うひょー!この中人間どもがうじゃうじゃいるぜぇ!」

「壊せ壊せ!破壊しまくれえ!!」


ジン達と合流したいところだが、暴れ回る悪魔との戦闘が凄まじすぎてどこにいるかも分からない。皆んな無事なのだろうか……


「正面からだと悪魔の数が多すぎる。僕達は離れた場所から入ろう。」


防御壁はすでに機能をなさなくなっていたため、東側の城壁からなんなく入り込むことが出来た。

街の中を悪魔がいないか注意しながら進んでいると、裏道から悲鳴が聞こえてきた。

急いで駆けつけると行き止まりで子供達が一匹の悪魔に襲われそうになっていた。

ルッキーが束縛魔法をかけて悪魔の動きを封じたところを私が刀剣で急所を一突きした。

10歳にも満たない小さな子供が三人、震えながら私に駆け寄ってきた。


「もう大丈夫。近くの避難所に連れてってあげるからね。」

「無駄だよ。多分この子達は地下街に住む孤児だ。最初から数に入ってないんだよ……」


王都の人口は増え続けていて避難所はすでにギリギリの状態になっているらしい。

孤児なんて、どこも受け入れてはくれないのだろうとルッキーは言った。

ウソでしょ……この子達は死んでもいいってこと?

見捨てられると思ったのか、全員が私の体をぎゅっと強く掴んできた。

怯えなくても置いていったりなんかしない。


「ルッキー、王都にあるパウロさんの屋敷は?そこなら入れてくれるんじゃない?」

「ここからじゃかなり遠いよ。戦闘の激しい地区を通過することになるから、連れて歩くにも危険すぎる。」


じゃあ一体どうしたらいいのかと悩んでいると、王都の奥にそびえる城が目に入った。







城の周りは驚くほど静かだった。

精鋭中の精鋭である第一兵団が守る城には、悪魔も恐れて手が出せずにいるようだった。

第一兵団は外側から確認できるだけでも30人程度が城の警備にあたっていた。


「第一兵団の姿がひとつも見えないと思ったら……まさかこの期に及んであのハゲデブは自分だけを守らせてんのか?とことんクソだな。」


ルッキーの悪態が聞こえたようでギロリと睨まれた。

鱗のような鎧で頭まですっぽりと隠れていて目だけが隙間から見えていた。鎧には高価な魔石がふんだんに仕様されていた。

第一兵団は全員かなりの実力者だ。それを魔石の力でさらに底上げしているようだった。

そんなとこでボーッと突っ立ってないで今すぐ住民を守りに行けと叱り飛ばしてやりたいところだが、今はこの子達の身の安全を確保する方が先だ。

門の前にいた兵士に駆け寄り片膝を着いた。


「お願いです兵士様。どうかこの子達を城の中に避難させて頂けないでしょうか?」

「なんだおまえらは?それ以上近づけば切り捨てるぞ!」


平身低頭な姿勢でお願いしたのに、にべもなく追い払われてしまった。

城は庭を始め何重もの防御壁で守られていた。あの広い庭の端にでも置いてくれればいいのに……こいつらには優しさの欠片もないのだろうか……

怒りを収えてもう一度お願いしようと口を開いた時、きゃああと子供達の悲鳴が上がった。


見ると今渡ってきた橋の上に、一匹の巨大な魔物が降り立っていた。

それは冥府の入口の番犬とも呼ばれ、三つの頭と蛇の尻尾、胴体には何匹もの蛇の頭をもつ恐ろしい犬の怪物ケルベロスだった。


「おいっ早く中に入れろよ!このままじゃあの化け物に食われるだろ!!」


ルッキーが大声を上げても兵士達は一向に門を開けようとはしなかった。

苛立ったルッキーは防御壁に思いっきり蹴りを入れた。


「モモちゃん、ここは僕が引き付けておくからその子達を連れて逃げて!」


そう言ってケルベロスに向かおうとしたルッキーを引き止め、私がケルベロスの元へと近づいた。

モモちゃん危ないとルッキーが叫んだ瞬間、私は右手を差し出した。




「ケルベロス、お手。」




ケルベロスが私の手の平にちょこんと前足を乗せた。



「えっと、モモちゃん……これはなに?」

「驚かせてごめん。この子は私のペットなの。きっと匂いをたどってきたんだと思う。」


私というか父の忠実な部下だ。

ケルベロスが子犬の頃は私がよく世話をして遊んであげたのだ。

大きくなってからは罪人を逃がさないために冥府の番人をしていたはずだったのに……

体にはいくつもの真新しい傷跡が残っていた。



「ベルセべトにやられたの?可哀想に……」



ケルベロスは首を傾け私にすりすりと顔を擦り付けてきた。きっとわけも分からず攻撃されて、罪人を逃がしてしまったことを申し訳なく感じているのだろう。

見た目の異形で恐れられているが、この子は優しくて臆病な性格なのだ。


「貴様は一体なに者だ?」


第一兵団の兵士達が私の周りを取り囲んだ。

見るとルッキーと子供達まで羽交い締めにされて捕まっていた。


漂う緊張感にケルベロスが牙を剥いて威嚇をし始めた。このままでは兵士達を襲いかねない。

落ち着かせようと両手で体を抑えてなだめていると、背後で兵士が刀剣を振り上げる影が見えた。


「モモちゃんっ……危ない!!」


鋭い金属音が響き渡って、折れた剣先が空高くにクルクルと飛んでいった。

兵士の前に現れた、私を庇うように立つ大きな背中……



「────────ジン……」



私に振り下ろされた刀剣を、ジンが叩き折ったのだった。

体からは憎悪の臭気が放たれていて、初めて会った時のように怒りに満ちていてゾクリとした。

ジンは第一兵団を睨みつけながら大きく身構えた。


「ジンさんストップ!!マズイですよ!」


ルッキーが慌てて止めに入ろうとしたがこちらの声など届いていないようだった。

以前第一兵団にケガをさせた隊員が捕まり王様から絞首刑を言い渡された。

魔王を倒しに来たのはその隊員達を助けるためだった。

このままではジンが絞首刑にされてしまう……!




「お止めなさい。戦う相手が違うでしょう。」




お城の建物の中からひとりの若い女性が現れた。

軽やかなベーゼルブラウンの長い髪が印象的な、目を見張るほどの美少女だ。


「外は危険です。その者達を中に入れておあげなさい。」

「しかしクリーデル王女、こんな得体の知れない奴らは信用なりません。」


どうやらお姫様のようだ。あの王様の娘にはとても見えないが、母親に似たのだろう。

クリーデル王女はその可憐な見た目とは反した凛とした佇まいで兵士達を見据えた。



「聞こえなかった?二度も同じことを言わせないで頂戴。」



第一兵団が刀を収めたのでジンも臨戦態勢を解いた。


「勇者ジンよ。此度の無礼をお許し下さい。」


クリーデル王女はそう言ってジンに頭を下げると、自ら門を開けて子供達を中へと招いた。


「モモもルッキーも中に入れ。」

「ジン、私も戦う!だから一緒にっ……」


「城で大人しくしていろ。ルッキーも分かってるな?」


ジンはクリーデル王女にお願いしますと一礼すると再び戦場へと去って行った。

一度も私の方を見ようとしなかった。勝手なことをしてジンを怒らせてしまった………


「心配なんだよ。こんなとこでモモちゃんが悪魔だってバレたらいくらジンさんでも救いようがないからね。で、僕にはモモちゃんの護衛を頼むってことなんでしょ。」


私もなにかせねばといても立ってもいられず王都へと来てしまったが、実際はなにも出来ない。


「ケルベロス……あなたは魔界にお帰り。」


この王都にいる悪魔を全員なぎ払ったところで境目はもう機能しなくなっている。

これからも凶悪な悪魔は次々と人間界にやってくるだろう……


ならば──────────





クリーデル王女は子供達の目の高さにまで腰を下ろすと、お腹空いてない?と優しく尋ねた。

子供達がコクリとうなづくと、メイドにご飯を食べさせてあげてと言って連れていかせた。

この振る舞いからしても、とても信用のおける人だと感じた。


「クリーデル王女、お願いがあるのですが。」


近づこうとした私を護衛の兵が威嚇してきたが、クリーデル王女がその動きを制した。


「いいわ。言ってごらんなさい。」

「魔王の魔石を私に返して頂けませんか?」



「貴女に返す……?」



食い入るように私を見る瞳に光が走った。

とても聡明そうなお方だ。なにかを察したのかも知れない。


「昔々に人間の王に渡した片割れも、全てを返して頂きたいのです。」

「片割れ?それはなに?」


「魔王の魔石と同じものです。代々受け継いでいると思うのですが……」

「父の魔石のコレクションは何度か拝見したことはありますが、そんなものは見たことも聞いたこともありませんわ。」



どうゆうこと……?

二百年前のクーデターの時に片割れも奪ったんじゃないの?

そういえばパウロさんの屋敷にあったカール・フィリップス1世の自画像にも片割れは描かれていなかった。

あの時描かれていたものって……


まさか……──────────





「モモちゃん……あれって……」



窓から空を見上げているルッキーの顔色が真っ青になっていた。

何事かと思って見ると、はるか上空に燃え盛る火の玉が浮いていた。

あれは前にベルセベトの分身に襲われた時のと同じものだ。

その時とは比べようもないくらいに巨大な火の玉が、上空で静かに大きく成長していっていた。





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