8.ばっとぜあずあろっとおぶしーつ
「いやいやぁ、難しいねこの世界に無い魔法をわざわざ作って初級の型まで落とし込むなんて、相手が重くて助かったよ。女の子には失礼だったかな?ハハハハハハ!!」
何倍にも増してかかる圧力に耐え切れず八肢が折れ、捥げ、鉄砲水のように体液をまき散らし蜘蛛は地に半身を埋めた。
背に生える苔や草花は何事もなかったかのように、皮肉にも風に揺られている。
「お前は...一体何者だ」
「そっちこそなーーーんにも教えてくれないしいいじゃない、秘密が多い方がキャラクターってのは魅力的なんだよー」
「何を言って...」
「ま、細かいことは気にしないのー!それよりさ!ちょいとばかし張り切り過ぎちゃってさ、そろそろ限界なんだよねー!そろそろ代わるから元の子に代わるまでのタイムラグの間寝ちゃうっぽいのね、その間に済ますこと済ませちゃって!出来れば近場の町の近くに置いといてくれると助かるよー、んじゃよろしく」
早口で言い終えた途端、男はゆっくりと目を閉じ前かがみに倒れこむ。
言葉を理解する間もなく、空に投げ出された男の体を抱きかかえゆっくりと地へと降り立つ。
この男が年頃の少女のように小柄で軽くなければこうも簡単に抱えることはできなかっただろう。
容姿端麗とはいかないが悪くはない中性的な顔、全体的にほっそりとしたシルエット、何より特徴的なのは黒を主として青、赤、金と髪色が統一されておらず部分的に色が違う特異的な長い髪。
はっきり言って私なんかより異常だ。
先ほどの魔法は何なのか?元の子とは?...そもそもいつから私はこの男を男と認識していた?
疑問は尽きないが、私もやるべきことがある。
木陰に男を降ろし潰れた蜘蛛の体を登っていく、目指すは背に当たる部分の花園。
生き物の死骸であるにも関わらず、大地を踏みしめているような感触に感慨を覚えながら登っていく。
下から覗くだけでは見えない登頂部には背の低い木と花が生い茂っている。
どれも古の時代に絶滅したであろう希少な植物達。
その1つに用があった。
「あった」
月光を受け灰色の花弁を薄く青く輝かせる弱弱しい小さな花。
かつて心優しき魔物が愛した花。
花の前に跪き語り掛ける。
「我らが始祖なる魔神よ、山の主とこの美しき花を贄としどうか私の願いをお聞き入れ下さい」
風が優しく体を撫で、僅かに雲が流れゆく。
何も起きず荒れ果てた森は静まりかえっている。
と、その時だった。
僅かに聞こえていた木々が囁く音が止んだ。
否、音が止んだのではない、風が、揺れ動く木の葉が、雲が、止まったのだ。
世界から色が失われていく。
『望みは何だ』
頭の中に男性とも女性とも取れない声が響く。
その声に雄大さは無く重く響く声でもない。
恐怖するわけでも違和感を抱くわけでもない。
ああ、そうか、死を覚悟した後の人間とは何も感じなくなるのだな。
「私の願いは、来世も...来世も死んだ夫ゼレウスとまた巡りあえるようにして頂きたいのです」
『我の力を以てすれば蘇らせることも叶うが望まぬのか?』
「はい、構いません」
『そうか、しかと聞き入れよう』
「感謝いたします」
『人の身を超えぬか、宜しい、1つ忠告をしておいてやろう。そこの者には今後関わるな』
「...わかりました」
『偉く素直な者だ、いや老い先短いとなるとそうなるものか。ふむ、そこの者は我にも全て見通せぬ、【異界の勇者】、【肉塊の女王】見えるのはそれまでだ。しかも一方はこちらに気付いているな。面白い』
声だけ響く頭の中で魔神が口角を上げたのが伝わる。
『その者に興味が沸いた、素晴らしい贈り物だ、礼を言う。さらばだ』
色の無い世界は徐々に着色されていき元の静けさ残る森へと戻っていった。
「ふぅ、もう考えるのはやめにしよう。頼まれ事をして私はあの人の場所へ行く、それだけだ」
私は"少女"を背負い誰もいなくなった森を後にした。
やがて死んだ森も命を育む礎となるだろう。
次は私も...から、待ってて。
プロローグ終了でございます。
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