7.しゅあ
じゅんずろりと並び立つ木々を蹴りながら、風魔法により軽く感じる体を前へ左右へと進め続ける。
止まったら死ぬ。
常に背筋にまとわりつく死の予感を糧としながら駆け、跳び、繰り返す。
人の身五十を縦に並べても届かぬであろう巨木が葉を啜り泣かせ、倒れ逝く。
森の主は数日前に会ったそれではない。
怒りに染まった紅の瞳を燃やし自らが作り上げた、金剛比肩な糸の道が木々と共に瓦解していく様を意にも介さず私の元へと止まることなく歩み続ける。
その様はまさに地ならし。
武器を持たずとも、巨体であるというだけで他の生命を奪い去るには事足りる。
もしも災害が意思を持ち、殺意と共に襲い来るならば為す術なく人類は絶滅の時を迎えるだろうと考えたが、人類という醜い生き物は抗い続けるに違いない、と瞬時に思考に否定が入る。
私がその立証人だからだ。
「恐怖はすれど脚が竦むわけでもない、本当に不思議な男だ。」
私の仕事は時間稼ぎと特定の場所に行くこと、そして起爆。
しかしあの程度でこの化け物が止まるとは到底思えない。
ヤツの桁外れな魔力量ならば何か出来るのかもしれないが一体何をするつもりだ。
考えている内に下準備が整った。
「グラウンドウォール!」
駆け跳びながら用意しておいた魔法を発動させる。
瞬間これまでに倒れ伏し、地に這いつくばっていた巨木を押し上げながら大地がせり上がる。
段々と大きな斜面となっていき巨木と大地を織り交ぜた階段と化した。
直後、雲隠れし薄光を放つ月を見据え上へ上へと大地の階段を駆け上がる、私を諦める気はないようで怪物もけたたましい地響きと土ぼこりを巻き上げながら追いかけてくる。
向かう先は蜘蛛糸の道、ここからは姿を晒しながらの誘導となる。
風魔法だけではいずれ追いつかれるだろう。
だがしかし問題ない。
「ウォーターボール!」
足先に水球が生成される。
天才と馬鹿は紙一重と聞いたことがあるが、あの男は何方でもない。
イカレ野郎だ。
「ホワイトバーン!」
水球を踏み抜く瞬間、水球を中心から一気に燃え上がらせる。
瞬きもできぬほどの間の後、爆音とともに前へ吹き飛ぶ。
今は前へ、前へ、前へ。
足先から弾丸のごとく推進力を得た私の体は大きく怪物から引き離される。
私でなければこんな芸当をしてただでは済まないだろう。
考えた本人ならば下半身が吹き飛ぶに違いない。
それでも止まっていては追いつかれてしまう、想定していたよりも速い。
それもそうか、自分専用の自分が作った道なのだから。
体勢を立て直しもう一度爆発を起こす。
追いつかれそうになってはもう一度。
もう一度。
繰り返している内に指定された場所に辿り着く。
糸の道の集積地とも言える開けた空間。
そこにあの男は待っていた。
「待ってましたー!丁度いいタイミングだよ」
この状況に似つかわしくないひょうきんな口調で話しかけてくる。
山の主は既に追いついてきているというのに。
「あとはもうちょっとこっち側までおいで」
言われた通り糸の端、男の近くまで行くが山の主は蜘蛛糸の中心地手前まで来ている。
後は起爆のみだが大丈夫なのだろうか。
「んじゃよろしく!」
「ブレイク」
予め設置しておいた魔法が発動し、この場を支えている支柱ともいえる糸に向かって火柱が立ち上る。私が扱える魔法でもかなり威力の高い魔法だが、それだけであの太さの糸を断ち切れるとは到底思えない。
そう思っていたのもつかの間、足場が誘導していた時の比ではなく大きく揺れ出す。
「君の糸さ、金属が混じってんのか温めたり冷やしたり繰り返すとすっごい脆くなるのね。だからさ、この数日ずっと冷やして温めてを繰り返してたんだよ。いやーこっちも睡眠時間削ってたからキツかったんだよ」
山の主も流石に足を止めるがもう遅い、ひときわ大きく揺れた後重力に従い落下していく。
「あとさ、でかいのはロマンあるし単純に強いよ。でもさぁ重すぎるのは良くないなぁ」
落ちていく山の主、だがこれほどで致命傷に至るとは思えな...
「ほんともうめんどくさいね、こっちで使うと作るのに時間もかかるし長ったらしい詠唱も必要になるしで嫌になっちゃうよ、しかも5倍増しが限界だし。はぁ、んじゃそろそろ死のっか」
【地に落ちろ虫ケラが】
その言葉が耳に入った時には、落下途中だった蜘蛛の体は勢いよく地面に叩きつけられ脚がひしゃげ抜け落ち、体液をまき散らしながらやや平たく広がった胴体が残っているだけであった。
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