6.ぱしっどおんとぅざねくすとじぇねれーしょん
ふむ、糸が反応している。
だが振動が小さい、懲りずに私を誘い出そうとしているのだろうがその手には乗らぬ。
これ以上無益な餌に付き合っている暇はない。
最初は私もそう思っていた。
しつこい。
しつこいぞ。
四日経った今でも糸が反応し続けている。
眠れぬ、眠れぬ、眠れぬ!!
ぬぐぐぐぐぐ!ああああああああああああああああああああああああ!!!
害獣どもがあああああああああ!!!
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「大きな振動、来る」
「もうちょっとかかるかと思ったんだけどね」
警戒心が増しているだろう相手をおびき寄せる方法は至って簡単、ブチギレさせて殺しに来てもらうのだ。
この森に入ってから不思議と1度も動物を見かけなかったこととモルテンさんが長時間戦闘していたことからとある仮説を立てた。
ずばりこの森の生物食いつくしてしまったんじゃね?
ということはだよワトソン君、普段糸が反応することはないということだ。
その上少ない食事であの体を維持するためには代謝を下げるために休眠が不可欠。
これはもう睡眠妨害作戦決行しかない。
僕が最初引っ掛かったものと同じであろう低い位置にある糸を見つけ数時間交代で振動を与え続けた。
これがどれだけストレスになるかわからない方は、隣人が深夜に部屋の中でダンスし始め4日間同じことが続き睡眠が取れていない状況を想像していただけるとありがたい。
ご想像の通り耐え難くこうして蜘蛛の魔物も怒鳴りつけるどころか殺しに来る始末である。
何故殺しに来てるかわかるんだって?
HAHAHA、さっきから地響きと木が倒れ地に叩きつけられる豪音がだんだんとこちらへ近づいてくるからだよ。冷静さがあるなら音が立たないよう、糸のハイウェイを通ればいいのだろうにそうしないということは、怒りに任せて行動している。
これが陽動であれば既に僕達は詰んでいる。
だが何となく陽動ではない気がするのだ。
睡眠妨害は頭が回らなくなるほどキレ散らかすと、経験した覚えがなくとも自信を持って言える。
「準備はいい?」
「心以外は完璧」
焚火に照らされた整った顔立ちの女魔族、もといモルテンさんは全く笑っていない目を隠すように口元だけで笑う。
相手は惰性混じりに捕食しにきた時とは違う、怒りに任せて我々を排除しようとしている。
そりゃ怖いわけがないだろう、興奮している僕がおかしい位だ。
いや恐怖を押し込める為に脳がアドレナリンを過剰分泌させているだけかもしれない。
「来た」
バキバキと音を立て倒れていく木。
闇の中、遠方に赤く光る眼が8つ。
「んじゃ手筈通り頼むよ」
「そっちもよろしく」
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全く、滅茶苦茶な作戦、私だけで時間稼ぎに誘導と負担が大きい割にあちらは待つだけ。
適材適所という面では合理的だけど、容赦がない"男"だ。
『逃げに徹したとして10分持てばいい方かな』なんて言わなきゃよかった。
「速くなってる」
ズパン。
目前の木々が幹のところで荒々しく分断され左右に倒れる。
月の光に照らされて折り畳まれ、収納されていく鋏角が金属を思わせるようにヌラリと光る。
ズシャンズシャンと重厚な脚を苦も無く動かし、静寂の森の主は姿を現す。
昼間見た時より倍近く大きく感じる程の威圧感、蛇に睨まれた蛙の気分が分かった。
「でも私は今日死なない、そうでしょゼレウス。だってあなたの姿が見えないもの」
亡き夫の名前を口にし私は蛇へと睨み返した。
よければ広告下の評価もポチーして下さらぬだろうか?
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