5.あいうぉんざめもりーずとぅーびー
蜘蛛の魔物の眼前で光が炸裂する。
今僕が唱えたのは初級光魔法【フラッシュ】局所的ではあるが眩い光を放つことができる。
人間相手ではあまり効果は無いが、暗目になれた1つ1つが小玉スイカぐらいの大きさはあるコイツには効果は抜群だったらしい。
脚に止めピクリとも動かなくなる、あれだけの巨体で転びでもすれば怪我は免れられない。
だからこそ上方修正しておかなければならないな、相手は生まれながらにして行動をインプットされているただの節足動物Aではない、自分が被害を被らないよう考え追跡を一度やめるほどの"知能"を持っている。
となれば二度と同じ手は通用しない。
事前に組んだ策を一度練り直す必要が出てきた。
入り組んだ道を走りながら考えるというマルチタスクの最中で話の前半が聞こえていなかったが、僕のやや後方から女魔族が話しかけてきていた。
「...まぁいい、私は逃げる訳にはいかない。ヤツの背に生えている花が必要」
「ああごめん、考え事をしていたもので聞いていなかった。アイツの姿とあなたの発言からして珍しい素材の匂いがするぜ、うん、興味が沸いた!これも何かの縁だ、手伝おう」
「変な奴」
後ろを向いて走れるほど器用ではないので顔は見えないが少し希望が宿った表情になった気がする。
人間の言葉が通じる相手でよかった。
「作戦があるんだけど乗ってくれるか」
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今日は散々な日だ、全く持って腹立たしい。
久しく獲物がかかったと思ったら魔力を全く感じぬ。
これまで魔力を感じぬ生物がかかったことはない、毛無し猿共と同じ姿形をしているが何か異様だと感じ、飢え死にするのを待つことにし、もう一方で反応のあった場所に行ってみるとまた毛無し猿。
しかも今度は糸に技と振動を与え私をおびき寄せていた。
私は給仕係ではないのだ。
ああ、腹立たしい、毛無し猿共はあまり養分にならん。
その上罠にかかっていないとするとちょこまかと動き捕まえづらい。
気を落としていたが捨てる神あれば拾う神もある。
この毛無し猿は魔力が中々にある、肉としての食いごたえはなくとも悪くない。
鋏角を大きく伸ばし嚙み潰そうとするが、鋏角が伸ばし終わるより前に毛無し猿が何やら喚く。
するとその瞬間私の体を取り囲むように幾重もの炎の槍襲い掛かってくる。
私でなければ致命傷となっただろう、私でなければ。
炎の槍は体に生す苔と泥に阻まれ掠り傷にもならなかった。
それを見た毛無し猿がまた何か喚くが気にせず鋏角で挟み潰す。
やはりな、これだから毛無し猿は嫌いだ。
木ごと断ち切ったが躱されている。
その証拠に第七脚、第五脚に少し痺れを感じる。
動かせなくはないが続けられるといずれ面倒なことになる。
糸の回廊から降り立ち地面を巻き上げ脚に泥と土を纏わせる。
皮肉なことに毛無し猿の知識が役に立つとは。
昔見た雷を放つ鳥と戦っていた毛無し猿が同じことをしていたのだが物は考えようだな。
「◆◆!!?」
また何か喚いているが今度は見渡してもどこにも姿が見えぬ。
面倒だ。
魔力の残滓を追うとしよう。
大きく脚を振り上げ地に突き降ろし深々と地に根垂らす木々を地盤ごと薙ぎ倒していく。
死んだとしてもあれほど魔力があるなら見つかるだろう。
最悪大地ごと食えば良い。
それにこれだけして矢継ぎ早に飛んでくる魔法、まだまだ生きているようだ。
それから地崩しを続けていたが半日もかからぬ内に毛無し猿は姿を現した。
まぁ良い、こちらも下準備は終わっている。
千切れた木の根や砕かれた岩にまみれ耕された地面はさぞニ本脚では動きにくいだろう。
すると今度は打って変わって近づいて私の体の下に潜り込んできた。
腹部へと何やら衝撃が伝わるが痛みを感じることはない。
炎の槍でも使っているのだろうが私には効かぬ。
日も暮れてきた、そろそろ終わらせようか。
体を地面に打ち付け潰そうとするが間一髪逃げおおせたか、再び私の眼前へ這い出てくる。
「◆◆◆◆!!」
やはり面倒くさいな。
あれほど魔力がある獲物はそう現れないがこれ以上は生産性に欠ける。
と考えている内に毛無し猿が走り出す。
先ほどとは違う方向へ走り出すが、安定感のない地面に脚を取られ明らかに速度が落ちている。
すかさず鋏角を伸ばしながら最後の追跡を試みるが林に入った時別の毛無し猿の声がした。
次の瞬間眩い光に目が眩む。
ぐぬぬ。
毛無し猿共め。
仕方ない私達は不幸な出会いだったのだ、そういうことにしておこう。
あぁ、全く持って腹立たしい。
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