4.わっどぅゆうぉんうぃずあでっどまん
やぁ、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
とってもお茶目な僕ことリリーは簀巻きにされ宙づりになってます。
毎回こんなんばっかりだよ自業自得だけど。
安全な街道を通ればよいものを逆張り精神で道なき道を歩き、5日間森の中をさ彷徨っていたところ何かに足が引っ掛かったと思ったら次の瞬間には宙づりだよ、【是ヨリ先何人ノ立チ入リヲ禁ズ】なんて石碑があったら誰でも行ってしまうだろう、少なくとも僕は侵入するぜ。
それにしてもこの蜘蛛の魔物、図鑑で見た蜘蛛の魔物の何倍も大きいじゃんね。
何が種を通して大きくなっても人間の子供程度の大きさだウソつきめ、民家ぐらいの大きさあるぞコイツ。
胸部から腹部にかけて苔が生しており脚の1本1本が木のように太い、厳めしい鋏角をギチギチと鳴らし背の高い木々に張り巡らされた図体を支えるに足る極太の糸に居座る巨大な土色の蜘蛛。
もはや動く小さな森であった。
蜘蛛の魔物は積極的に獲物を捕らえに行くタイプと待ち伏せタイプがいるが不幸中の幸い、どうやらコイツは待ち伏せタイプな上に糸を張る種類。
糸を張らない待ち伏せタイプはすぐに捕らえた獲物を捕食するが糸を張るタイプは保存食として取っておくので当分は食い殺されないだろう。
さーてどうしたものか。
メモとスケッチをとりたいが腕が拘束された状態じゃどうにもならないな。
火魔法で何とか焼き切れるか試したいがこっち見てるしなぁ。
何か策が無いか考えていると、蜘蛛の魔物は丸太のような脚をゆっくりと動かし糸を軋ませながらどこかへ向かっていった。
他の獲物の反応でもあったのだろうか。
この機を逃さない手はない。
「炎の精霊よ、我が手に炎を、ファイアアロー」
ジュッ。
ほんの少しだけ拘束が緩くなった気がするが強靭な糸を焼き切るには火力が足りない。
「ならば何度でもやるまで!炎の精霊よ、我が手に炎を、ファイアアロー。炎の精霊よ、我が手に炎を、ファイアアロー...」
もう伸びることはないであろう僕の才能には1つだけ2人にはない明確なアドバンテージがある。
いくら魔法を使おうが魔力切れが来ないのだ。
普通魔法は使い続ければいずれ魔力切れを起こし、魔法を行使できなくなるどころか倦怠感に襲われまともに動けなくなるがが僕にはそれがやってこない。
10回使おうが100回使おうが魔力切れを起こすことはない。
しかもフリンジさん曰く僕の体からは魔力が全く感知出来ないらしく、こういう場合体内の魔力量があまりに強大過ぎて探知できないそうなのだが僕は魔力を感知することが出来ないし本当に魔力が全くないのだと思われる。
ギフトが原因だとしても魔法使い放題なのはありがたい。
質が悪いなら物量で押すのみ!
日が傾き森が暗くなってきた辺りでやっとこさ糸を焼き切ることに成功した。
20回を超えたところから数えていないが100回は詠唱したと思う。
華麗に着地とはいかず胴体を地面に叩きつけられ、鈍い痛みに襲われる。
「痛ってぇ、死ななきゃ無傷死ななきゃ無傷」
背中をさすりながら自分に言い聞かせるが痛いものは痛い。
痛みが引いて冷静になってきたところで、遠方から地に響くような音が聞こえてきていることに気づいた。
もしや蜘蛛の魔物と獲物になりかけてた何かが戦闘をしているというのか。
そりゃ行くしかないでしょ。
大怪獣バトルが見れるかもしれないんだぜ。
木の根を踏み越え現場へ急ぐ。
長時間戦っていることからあの蜘蛛の魔物と近しい戦闘力を持つ魔物か、とにかく数が多い群生する魔物に違いない。
メモとスケッチの用意はできている。
近づくにつれ地響きは大きくなっていきそれに比例して胸の鼓動が高まっていく。
見えた、あの丸太のような脚は蜘蛛の魔物の物、戦っている相手はいったい何なのか。
木の陰からそろりと見てみると期待感が弾けて霧散した。
人だ。
すらりとした脚、闇に溶けるような長い紫色の髪、外套により露出している面積は少ないが暗い森の中でもわかるほど青白い肌。
人間離れした美しさというよりそもそも人間じゃない気がする。
魔族か悪魔か吸血鬼とかそのあたりだろう、あれ?総称して魔族っていうんだっけ。
スケッチとっておこう。
腰元のバッグから手帳を取り出そうとするが手を突っ込んだまま固まる。
手帳がない。
簀巻きにされた時に落としたのかここに来る道中落としたのか。
仕方ない、道を戻ろうにも元の道がわからないし諦めよう。
「はぁ、はぁ、どれだけ魔法を叩き込んでもキリがない。何か手は」
あ、この人女の人だったんだ、顔が見えないからわからなかった。
綺麗な声してるなぁ。
このまま続けてても消耗戦になって負けるのは明白だし加勢してみるか、あの蜘蛛の魔物のこと調べたいし。
外から見るより中身を見るのが一番だしね。
「炎の精霊よ、我が手に炎を、ファイアアロー」
蜘蛛の腹部に向かって飛んだ矢は蜘蛛の魔物の分厚い肉と苔の装甲にダメージを与えることなく、こちらが攻撃したことさえ気づいていない。
だがそれでいい。
狙いはお前じゃない、そしてそれは達成された。
大ぶりに手招きすると女魔族はこちらへ進行方向を変え走ってくる。
そして女魔族を逃がすまいと大股?で合っているかわからないが蜘蛛の魔物は追跡してきた。
取り敢えず第一作戦は成功かな。
暗い場所になれた目にはさぞかし苦しい1撃をどうぞお召し上がりください。
唱え終わった魔法を解き放つ。
「フラッシュ」
よければ広告下の評価もポチーして下さらぬだろうか?
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