3.おーいぇあ、あいむでっど
僕には才能がある。
でもそれは2人と比べてしまうと余りに見劣りしてしまうような物であった。
2人が大陸に1つしかない魔法学校に入学し1月が経ち、いつも通りフリンジさんと魔法を修行をしていたある日、座学を受けているときにそれは告白された。
「君はどうやらギフトを所持しているらしい、しかし...その...何というか...そうだな...正直に話そう、君は3人の中で一番魔法を覚えるのが早かったが今もこうして初級魔法しか使えない。すべての初属性の初級魔法を使える者はそう多くないし十分に凄いことだと思う、だから落ち着いて聞いてほしい。君は初級魔法を全て使えるが代わりにそれより上の階級の魔法をいくら努力しても行使できるようにはならないだろう。君に与えられているギフトは...」
フリンジさんと僕だけの空間。
本が山積みになりカーテンの隙間から差した光が埃舞わせる部屋の中。
僕はまるでこの5年間の努力を踏みにじられたようなやるせなさに涙してしまった。
確かに驕っていたさ、だって僕が一番最初だったんだから。
僕だけの魔法、僕だけの才能、僕だけの唯一性。
いつしかそうでなくなっていった。
1年、2年経つ度に追い抜かれて引き離されていく中、ひたすらに修行し続けた。
毎日毎日...それなのに...
「そりゃないよ」
フリンジさんが抱きしめてくれた瞬間、声を抑えることも出来なくなった僕は赤子のように泣きじゃくってしまった。
歳相応な姿を初めて見せた気がした。
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この世界には稀にギフトという異能を持って生まれる赤子がいる。
ギフトを持っているかどうかは魔道具を使って調べることができるが結果が出るまで数年単位で時間がかかってしまう。
フリンジさんが持っていた魔道具の精度が良いか悪いかわからないが5年もかかってしまった。
そのせいでとは思わない、元々は隠れて魔法を使ってたのが悪い。
「まぁいいか、座学は無駄にはならなかったし習得の為に使うはずであっただろう無駄な時間を別のことに使えるし」
しかし落ち込むものは落ち込むなぁ、僕だけ置いて2人だけ魔法学校に入学か。
入学条件が中級以上の魔法が行使できることだもんなぁ。
「仕方ないものは仕方ない、明日は畑仕事手伝うか」
泣き疲れていたのか瞼を閉じた次の瞬間には睡魔が誘ってきた。
誘われた先は朝日が差し込む部屋ではなく見たことも無い景色だった。
黒みがかった紫色の澱んだ雲がかかり僅かな雲間から灼けた空が顔をのぞかせている。
木々は枯れ、薙ぎ倒されたように一方向に並び土と岩を曝け出した大地が寂しそうに風に吹かれている。
そんな中青みがかった緑翠色の髪とローブを靡かせる青年が眼鏡を拾い上げている。
ジャスパーだ。
直感以外に頼るものが無いがあれがジャスパーだと訴えてきている。
とするとその横にいる赤髪の女性はユーリか。
2人の視線の先には...何だあれ。
遠くに黒い豆粒のような物が見える。
ああ、遠くにいたから小さく見えていただけか。
人型の巨大な機械。
シャープながらに無骨さを感じる黒色の機械。
この世界にあっていいものじゃないだろ、そいつはよ。
あーあー、そんな火力じゃ表面のコーティングアーマーすら削れねぇよ。
面の攻撃じゃなくて点の攻撃でまずはコーティングを剝がさねぇと中までダメージが浸透しないっての。
...僕は何を?
あれは何なんだ。
ここは何なんだ。
なぁ、教えてくれよ。
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「ふぁぁ、もう朝か」
差し込む朝日が瞼を照らし起き上がる。
何か夢を見ていた気がするが何も覚えていない。
良くも無い夢だった気がするし逆に覚えてなくてよかったかな。
「さーて畑仕事手伝いに行きますか」
これ以降僕がまた変な夢を見ることはなかった。
畑仕事。
フリンジさんの家で本を読み漁る。
畑仕事。
僕の日課から魔法の練習は消えていった。
とはいっても使うことがなくなったわけではなく畑仕事には重宝している。
才能が有れど人は人の身の丈で生きるのが丁度いいんだろう。
時が経つのは早い、フリンジさんの家の本を全て読み漁ったころには僕は15歳になっていた。
このころには最強の魔法使いになるだとかすべての魔法が使えるようになるとかそんなことは頭から抜け全く別の夢を追いたいと思った。
「世界を巡って見聞を広めたい、知りたいんだこの目で世界を見て、学んで、そして、本を書きたい、僕だけの僕の旅の本を」
反対されるかと思っていたが両親もフリンジさんも村の皆も誰一人としてしかめっ面をせず応援してくれた。
いつか戻ってくる。
だからそれまで父さん、母さんお元気で。
僕だけの僕の旅の始まりだ。