1-8 とある店
転移門をくぐると数秒光に包まれたのち、いつものギルド内に戻ってくる。
「皆様お疲れ様でした、報酬をお支払いいたしますので右耳をご提示ください」
その言葉を聞き我先にと並ぶ先輩冒険者たち、ここで争いが起こることがないのは受付のお姉さんの目が光っているからだろう。
先日ギルドへ冒険者登録に来た人がいたのだが受付のお姉さんに色目を使い、その後試験でボコボコにされて帰ってきたのは周知の事実だ。
我先にとカウンターへ向かえど綺麗に整列しているのはそういうことだ。
私たちは最後尾に並ぶ。
「これで僕たちは家が買えるよ、ああ今回のだけじゃなくてこれまで貯めていた分併せてね」
ボブはるんるん気分で話す。
実際ボブはこれまでクエストに出た時もできるだけ節約してやり繰りしてきた。
ボブとモブちゃんは身寄りがなく十にも満たない時から冒険者をしている。
そうして8年は冒険者としてやってきたんだ。家一つ購入できるくらい貯えがあってもおかしくない。
「これで安宿生活も終われるのねお兄ちゃん」
「うん!これからは安家生活さ!」
果たしてそれでいいのだろうかというツッコミは今回なしとする。
そうこう話している内に私たちの番がくる。
ボブは腰元に結わえつけた袋をカウンターの上に出す。
「計算いたしますわ」
1、2、3、4と数えていきその数は33枚。
銀貨の数も33枚支払われた。
「またのご利用お待ちしておりますわ」
「うん、ありがとうまたね」
「銀貨33枚もあればこの町で豪遊しても5日は持つね」
「ははは、そんなことしないよ。それじゃこれがミクリーさんの取り分ね」
と言われ袋から銀貨を取り出したボブから12枚受け取る。
「3枚は僕たちからのおまけさ、また妹を助けてもらったしね」
「また助けていただきありがとうございました」
「結果的にはみんな無事だったしいいよいいよ」
「まぁまぁそう言わずに受け取って」
しぶしぶ13枚の銀貨を受け取る。
貰ったものは有効活用せねば。
「それじゃ僕たちはこの辺で、お疲れ様」
「おっ、お疲れさまでした」
「お疲れー」
言い終えると2人は街へ足を繰り出した。
私もこれからどうするかは決まっているので街へと繰り出すことにする。
その前に。
「お姉さん、この街に魔法具店ってあります?」
「魔法具店なら大通りを東に進めば1軒あるわよ」
「ありがとうございます」
目的は魔法具店、勿論杖を買うためだ。
杖は魔法の発動の補助をしてくれたり、威力を増大させてくれたりとあって損はないものだ。
ただそこそこ値が張るので今のように手持ちが多くないと買えない代物である。
今の所持金は銀貨17枚、宿に数日泊まること考えれば1枚は残しておきたい。
知っての通りだが金貨1枚で銀貨100枚、銀貨一枚で銅貨100枚の価値と同等である。
宿に泊まるのに1日銅貨8枚かかるので銀貨一枚あれば十日ちょっと泊まれる。
「さーて杖はいくらするのかな」
5分ほど大通りを歩いていくと魔法具店と書かれた看板を見つけた。
ここか銀貨10枚ぐらいで買えるといいのだが、どうだろうか。
「らっしゃい」
初老の男性店員が挨拶をしてくる。
「杖を探しているんですが」
「ショートかロングか」
「ショート?ロング?」
「ショートっつうのはこんなのだ、ロングはこれ」
提示されたショートと呼ばれた杖は30cmぐらいの、ロングは1m30cmぐらいの杖であった。
「ショートは効果が薄いが扱いやすい、ロングは効果が強いが扱いづらい」
ううむ、悩みどころではあるが扱いやすいショートよりロングを選ぼうと思う。
言っても初級魔法しか使えない私には扱いづらいもくそも無いのだ、ちくしょう。
「ロングでお願いします、ええといくらです?」
「一律銀貨50枚、ショートは30枚」
「あっ...出直してきます」
「またな」
どうやら杖を扱うのは当分先のことになりそうだ。
とぼとぼと歩いていると街の端の方まで来てしまっていた。
宿とは真逆の方向である、いいことがないと続いてしまうということか。
ツキが落ちてしまったのか、はぁ。
周りを見渡しても古びた家が密集しており目ぼしいものは...
「あっ」
見たことない文字のはずなのに読める魔法具店と書かれた看板、そしてどこか懐かしく感じる木造りに瓦の屋根。引き込まれるように私は中に入っていった。
「いらっしゃいませ」
「っ!?」
挨拶をしてきた人を見て驚愕する。
その人は頭が大きな懐中時計でできていた。
「おやおやこれは失礼いたしました、初めての方は驚いてしまうことでしょうが心配はございません。このように取ってしまっても問題はございません」
「ああいや取らなくていいですって!」
「そうですか...それではご紹介させていただきましょう!私はファウダー、この魔法具店の店主をさせていただいております」
頭をとらなくてもいいという指摘に少し悲しげな表情?を見せる店主。
「は、はぁミクリーです」
「今はそのような名前なのですね」
「?」
「ああこれまた失敬、こちらの話です。さてあなたが欲しているのはこちらですね」
「これは長杖?」
見るだけでわかるとても古い木で作られた直線で描かれた長い杖。
先端は少し大きく膨らんでいる。
「ええ、とても良い逸品ですよ」
「でもお金が」
「お題は結構でございます、私とあなたの仲ではありませんか」
???
ますます理解が出来なくなる、こんな変わった人と会ったことなどないはずだ。
「今のあなたにはこれも必要でしょう、これもお題は結構ですよ。もとはと言えばあなたの...いや失礼いたしました」
そういうと棚から本を取り出し私に渡してくる。
店内は外が昼間だというのに暗く店主と私以外ほとんど見えない。
「この本は?」
「禁忌の魔導書です」
「禁忌!!?」
「ええ、全属性と少しばかりのオリジナル魔法が掲載されております」
「そうじゃなくて禁忌の魔法なんて私使えないよ、使えても初級魔法だけだし」
「そうなのですか?禁忌の初級魔法なんてのも載ってますよ?」
「下さい」
「毎度ありがとうございます」
こうして私は逸品だとされる杖と禁忌の魔導書を手に入れた。
店を出る前に礼を言おうとしたが先ほどまでいた店主の姿はなく仕方ないので店を出る前に一礼する。
店を出て振り返ったがそこには荒れ果て草が生えているだけの空き地であった。
一体何だったのだろうか。




