踊りが好きだけど、極度のあがり症の俺は皆の前で踊れない。なのでモーションキャプチャーで踊って配信したら有名になった。けど、女の子なので誰も俺と気付いてくれない
俺の名前は雛鳥飛鳥十六歳、高校一年生だ。
踊りが好きで、小さい頃はスクールに通い、コンテストにも出た事がある。
「飛鳥君、君なら優勝間違いないよ!」
「飛鳥なら大丈夫! 俺より上手いんだから、絶対優勝するさ!」
先生や同じスクールに通う友達からもそう言われ、自信をつけて挑んだ舞台。
俺はそこで……踊れなかった。
極度の緊張で、体が動かなかった。
頭では踊らないと、と分かっていても、体はまるで凍っているかのように微動だにしなかった。
皆の視線が突き刺さり、俺はついに舞台で蹲ってしまった。
それからの事は、正直よく覚えていない。
気付いたら家のベッドに居て……。
父さんも母さんも、そして妹も……俺に失望しただろう。
階段を降り、リビングに顔を出した。
その時の父さんと母さん、それに妹の表情は……安堵だった。
「飛鳥、よく頑張った。父さんはお前の頑張りを知ってるからな。舞台で踊れなかったのは残念だけど、気にする事はない」
「そうよ飛鳥。飛鳥は踊りが大好きで、今まで頑張ってきたんでしょう? ほら、こっちにきてご飯にしましょう?」
「お兄の踊りが凄いの、あーしは知ってるから。だから、今は心を休めてね」
俺は、そのまま泣いてしまった。
父さん、母さん、そして妹に慌てられて、それでも……我慢できずに涙が次から次へと溢れて。
ただ、その事がきっかけで……俺はある障害を負った。
社交不安障害、通称あがり症。
俺はそれが極端に酷く、日常生活にすら支障をきたす。
人と話すと心拍数が上がって心臓がバクバクするし、声や手が震えて止まらないし、汗が凄く出てくる。
だから俺は他人と話す事をしない。
あの頃は自然に出来ていた友達も、中学生に上がってからは作れなくなった。
学校が終わると家に帰り、好きな踊りの練習を続けた。
コンテストに出る事が出来なくても、踊る事が好きだから。
人前で踊る事が無理なだけで、先生とのワンツーマンや、ワルツなどの一緒に誰かと踊る事は自然とできた。
ただ、沢山の人目があると無理だった。
皆の視線が気になって、どうしても踊れなくなる。
今日も先生に踊りを指導して貰っていた。
「はい、そこまで! グレイトよアスカ。もう完璧。本当に、勿体ないわね……アスカならコンテストを総なめできる実力があるのに……」
「あはは……ありがとうございます先生。それもこれも、先生の指導が素晴らしいからです」
先生は女性のような声と見た目だけれど、男だ。
いわゆるおねぇ系男子、なんだけど……見た目が全然女性と違和感ないのが凄い。
「お世辞は良いのよアスカ。私は確かに色んなコンテストに優勝してきたし、世界でも通用するダンサーって言われてるけど……貴方の踊りを見てから、引退を決意したのよ」
「それが、納得いきません。先生なら……」
「良い、アスカ。私は昔のように、踊りが好きで踊っていたわけじゃなかった。それがお金を貰えるからにいつしか変わっていたの。そんな私が、技術も心も完敗したのがアスカなの。だから私は、いつかアスカが羽ばたける日が来るのを期待してるのよ」
その言葉に、俺は俯く事しかできない。
俺も、昔は皆の前で踊りたいと思っていた。
皆に俺の踊りを見てもらいたい、楽しんでもらいたい。踊りを好きになってもらいたい。
そんな想いがあった。
だけど……
「ごめんなさい、デリケートな話だったわね。……そうだアスカ、YouTubeって知ってるかしら?」
「え? あ、はい。一応は……」
友達の居ない俺は、スマートフォンを使わないのだ。
登録しているのも、父さんと母さん、そして妹と先生の四人だけだし。
なので、自然とスマートフォンを携帯していない。
今日も家に忘れてきたくらいだし。
「なら話は速いわね。どうアスカ。動画を撮って、配信するっていうのは」
「動画を、撮る?」
「そう。YouTubeには色んな投稿があるけれど、その中には踊りも勿論あるのよ。動画配信なら、踊っている時に見られるわけじゃないし、緊張もしないでしょう?」
「それは……でも、俺は……」
「もし顔出しも嫌なら、最初はモーションキャプチャーを使って、キャラクターに踊って貰うのはどうかしら?」
聞いた事はあった。現実の人物や物体の動きをデジタル的に記録する技術で、モーキャプ(mocap)と略される。
つまり、俺が踊って、その姿は別のキャラクターが踊ってくれるという事だ。
即答できない俺に、先生はやんわりと言った。
「飛鳥の学校に私の娘が居るんだけど、その子に設備を提供するように伝えておくから、もしやる気になったら教えてもらって。それじゃ今日のレッスンはここまで。しっかりと柔軟しておくのよーって、アスカには言う必要もなかったわね」
うふふと笑って、教室から出て行く先生に頭を下げる。
そういえば、その娘さんの名前聞いてないんだけど……まぁ良いか。
どうせ俺から話しかけるなんて事は出来ないし。
しっかりと体をほぐしてから着替えて、家へと帰る。
この教室は家から電車で一駅なので、そこまで遠くはない。
「ただいまー」
「お兄お帰りっ! れーかちゃんから連絡あったよ! お兄もついにデビューだねっ!」
「はい?」
妹の花乃がわけの分からない事を言う。
まずれーかちゃんとは誰ぞ?
「あ、れーかちゃんって言うのはお兄のレッスンしてくれてる先生の子だよ! あーしのお友達なんだけど、確かお兄と同い年だよ!」
成程、先生から連絡が行って、友達の花乃にそのまま連絡がいったわけか。
っていうか俺、まだするとは言ってないんだけど……
「あー! すっごく楽しみだよ! お兄のすっごい上手い踊りが、これで日の出を見ると思うと……すっごい嬉しい!」
凄く良い笑顔でそう言う花乃を見て、何も言えなくなる。
そうだ、俺以上に……俺の家族達は、俺の事を気に掛けてくれている。
家族以外の人とまともに話す事も出来なくなった俺。
例外は先生だけど……俺はそのれーかという人を知らない。
果たして、俺に話す事が出来るだろうか……。
そんな事を思いながら、翌日学校につき、自分の席へと向かう。
誰とも挨拶すら交わさない。
おはようの一言も言えない俺は、自然と挨拶もされなくなった。
俺もしないのだから、当たり前だ。
ただ、こんな俺でも虐められる事がなかったのがありがたかった。
そうしていつも通り、教師が来るまでの間机にべたりと体重を預けていたら、ざわざわと辺りが騒がしくなってきた事に気付く。
ふと廊下に視線をやると、原因が分かった。
沢渡麗華が来ているからだ。
黒い長髪は腰まで届いていて、彼女が歩く度に美しく揺れる。
容姿端麗という言葉がそのまま当てはまる彼女はこの学校のマドンナだ。
すでに多くの男子生徒から告白をされては、全て断っているらしい。
俺みたいな奴でもそれくらいは知ってるくらい、有名な人だった。
その彼女がきょろきょろと辺りを見回している。
誰か探しているんだろうか?
まぁ、俺には関係ないかと視線を戻そうとした所、彼女と目が合った。
「!?」
驚いた事に、彼女はハッとした表情をしたと思ったら、こっちへと歩いてくるではないか。
ざわざわと教室が騒がしくなっていく中で、ついに俺の机の前に来た。
「貴方が雛鳥飛鳥君?」
「そ、そそ……そうれす、きぇど……」
思いっきり噛んだ。
やばい、心臓がバクバクと五月蠅い。
手に汗がにじむ。彼女は何も悪いことはしていないのに、俺は視線を下へと向ける。
「ああ、ごめんなさい。えっと……パパから聞いてると思うんだけど、あの件で来たの。今日大丈夫?」
「だ、だい、じょ、ぶ、です……」
「そう、ありがとう。要件はそれだけ、また放課後にね」
そう言って、彼女は去って行った。
教室では色々と話題が上がったが、すぐに俺なんかと付き合ってるわけがないと皆断定したようで、すぐに話題は下火になった。
それで正しいんだけど、中々に悲しい現実である。
まぁ、俺は人とまともに話せないしな……頭の中では色々と考えられるんだけど、口に出す事が苦手で、舌足らずになってしまう。
でも……彼女は凄いと思った。
大抵の人は、俺と話そうとしたら、顔に出る。
何この人? という感じがすぐに分かる。
例え、笑顔で取り繕おうともだ。
だけど、麗華さんは違った。
話したのはほんの少し。だけど、彼女からは嫌がるような気持ちは一切感じなかった。
彼女が感情を隠すのが上手いだけの可能性だってあるけど……それでも良い。
そうこっちが感じなかった、それが大事なんだから。
にしても、れーかちゃんって、麗華さんの事か!
分かるか! 繋がらんわ! 俺の妹は、控えめに言っても普通だ。
麗華さんのように綺麗なわけじゃないし、どっちかと言えば可愛いという方だ。
それだって兄補正が入ってだ。
あの学園のマドンナと比べたら月とすっぽんである。
朝から心臓に悪い展開を迎えながら、朝の授業を終える。
昼の休み時間は授業の合間の休み時間より長く、俺にとって苦痛の時間である。
だって、ぼっちだからね。
基本的に話す相手なんて居ないし、弁当を食い終えたら机で寝るだけである。
皆で集まって談笑するグループもいれば、俺のように一人で机に居ながらスマートフォンを弄っている人も多数いる。
そんな中で、すぐ横の人が何やら音量を上げてスマートフォンをつけて皆に興奮して何か話している。
ちょっと気になったので、耳だけそちらに傾けてみる事にした。
「マジだって! そんなに言うなら見て見ろよ!」
「どれどれ……うおっ! すっげぇ! なにこれ、アニメのキャラが踊ってんの?」
「いや、実際の人が踊ってんの! で、キャラクターを創ってそれに踊らせるらしい! モーションなんとかっての!」
「へぇ、凄いじゃん。検索したら出る?」
「おう! あと、このキャシーって人の踊りすっごいレベルたけぇんだよなぁ。噂じゃこの学校のマドンナ、麗華さんだって話だぜ? 顔はいつも隠してるんだけどさ」
「「「マジで!?」」」
人が集まって来たので、それ以上聞き取る事は出来なかったが、昨日話を聞いたばかりなのでタイムリーだったな。
そして最後の授業のチャイムが鳴る。
午後のホームルームで担任から伝達事項を聞き、それで終わりだ。
さて、帰るとするか。
カバンを持って廊下へと出る。
すると、待っていたかのように彼女、学校のマドンナである麗華さんが居た。
「さ、行きましょ」
「は、はい……」
有無を言わせぬ一言に、気分は連行される牛である。
周りの人からの視線が痛い。
見ているのは俺じゃないのに、まるで俺が見られているかのように感じる。
「気にしない、って言っても無理よね。でも、校門で待ち合わせは辛いでしょ? 私、貴方の家知らないから……直接行く事も出来なくて。ごめんなさい」
そう小声で言う彼女は、こちらを気遣ってくれている。
……情けない。今日ほど、そう感じた日は久しぶりだった。
そうして家につくと、すでに帰っていた花乃が出迎えてくれた。
「お兄! それにれーかちゃん! いらっしゃい! 待ってたよ! いつもあーしが行くばっかりだったから、本当にごめん!」
「良いのよ。お兄さんの事を思って、誘えなかったんだよね? 分かってるから」
「ッ……」
俺は、またも大切な事に気付かされる。
妹の花乃の優しさに、嬉しくもあり情けなくもあり。
「そ、そんな事より! あーし、お兄の踊りが見たいんだ!」
「私もパパや花ちゃんがべた褒めの踊り、早く見てみたいわ」
花乃と麗華さんが笑いあう。
一方で俺は、少し不安だった。
花乃が居るとはいえ、全く知らない人、というわけではないが……他人と言っても変わらない人に見られながら、体が動くだろうか、と。
家に帰るまでも、一切話さなかった。
だから、落ち着く事は出来た。
こんな俺が、果たして麗華さんの前で踊る事が出来るだろうか、と……。
「それじゃ、早速用意しましょう。いつもはどこで踊りの練習を?」
「こっちこっち! ついてきてれーかちゃん! お兄はさっさとカバン置いて着替えてきて!」
「はいはい……」
花乃が麗華さんを練習部屋へと連れて行くのを確認してから二階へとカバンを置きに行く。
そしていつもの練習用の服に着替える。
体の調子はいつも通り。
いける、はずだ。
心を落ち着けてから、練習部屋へと移動する。
「あ、お兄!」
「へぇ……意外と引き締まっているのね」
笑顔で俺を迎える花乃とは対照的に、興味深そうに俺の全身を見る麗華さん。
うう、普段の緊張とは別の意味で緊張してきた。
我が家に学校のマドンナが居る事の事実に、今更ながらに戸惑う。
「さて、まずはこれを付けて。このパソコンにデータが送信されて、全く同じ動きをこのキャラクターがしてくれるわ」
「え……」
パソコンの画面を見れば、凄く可愛い女の子が立っている。
アニメ調の絵だけれど、3Dで出来ているのか、俺が手を上げると手を上げて、くるっと回転すれば、その子もくるっと回ってスカートが揺れる。
「す、すごい……」
「飛鳥君は踊りって見たら覚えられる?」
「え? あ、はい。一度見たら大体は……」
「そう、凄いのね。それじゃ、これをちょっと見てくれる?」
見取り稽古と言って、人が踊っているのを見て自分も踊る練習がある。
俺の数少ない特技の一つに、一度見た踊りを、自分の身体能力で可能な範囲で同じように動く事が可能な事がある。
勿論アレンジを加えて、完全に自分の物にする事だってできる。
過去、俺の踊りが洗練されていったのは、素晴らしい技術をもった先人たちの踊りを見て覚え、真似て踊りを重ねたからだ。
自分の身体能力と技術が足りず、模倣にすら最初は至らなかった。
だから思うように体を動かす為に、体を鍛えた。
食事は母が栄養士な為、バランスよく栄養を取る事が出来た。
早朝の人が少ない時間にランニングをするのも、父さんが一緒に走ってくれた。
俺は好きな事をしているだけなのに、家族はそれを応援してくれた。
そんな俺が、家族に恩返しが出来るのはやはり、踊りしかない。
「うん、覚えた。音楽開始して貰って良い?」
「え、ええ。それじゃミュージックスタート」
動画と同じ音楽が流れ始める。
♪~世界でいちばんおひめさま♪~
※気になる方はワールドイズマインで検索すると出ます
それと同時に、俺は踊り始める。
パソコンの画面には、俺であって俺ではない可愛い女の子が、俺と全く同じ動きで踊る。
「す、凄い……え……? これ、本当に同じ踊りなの?」
「へへ、凄いでしょれーかちゃん! お兄、踊りは本当に天才的なの! 同じ踊りでも、お兄が踊ると迫力が違うよ!」
♪~こっちのが危ないわよ♪~
歌の終わりで首を傾げて終わる。
これはどう見ても女の子が踊るような歌だったので、男の俺がすると気持ち悪がられるかもしれない。
まぁ、皆が見るにはパソコンの女の子だから良いか。
そう思って二人に視線戻すと、花乃はいつもの笑顔で頷き、麗華さんは呆けた表情をしていた。
どうしたんだろうか?
「あ、あの……」
「す」
「す?」
「凄い凄い凄い! 本当に凄い! それに可愛い! なんなの!? どうしたらそんなに恰好良く踊れるの!? 素敵すぎるわ!」
「お、おぉぅ……」
なんかすごい早口で褒められた。
最近はいつも褒めてくれるのは家族と先生だけだったので、なんか照れくさい。
「花ちゃん! これそのままアップするわよ! 手伝って!」
「ほいきた! 準備は万端だよ!」
いやちょ! それ一回踊っただけのやつなんだけど!?
顔に出ていたのか、二人が詰め寄ってくる。
「モーマンタイよっ! 私が保証する、これは絶対人気でるわっ!」
「あーしも保証する! あーし達に任せて! こう見えてあーし達踊ってみたでは人気なんだから!」
よく分からないけど、勢いが凄いので頷く事しか出来ない。
二人がパソコンの前で色々と話し始めたので、俺は練習部屋から出る。
「ただいまー」
「あ、母さん。お帰り」
「飛鳥、知らない靴があるんだけど、花乃にもしかして買ってあげたの?」
コテン、と首を傾げる母さんに苦笑する。
うちには誰も来た事が無いからだ。
花乃も気を使って、友達を呼ぶことが無かった。
俺はそんな家族達の優しさに甘えているんだ。
「えっと、実は……」
母さんに事情を説明する。
すると母さんは目に涙を浮かべて言った。
「そう、そう……。また後で母さんにもその動画を教えてね。絶対に見るし、母さんの友達にも自慢したいからね」
俺は、恵まれている。
優しい家族が居て、本当に嬉しい。
その日の夕方になるまで麗華さんは花乃と一緒に居たようだ。
練習も出来ないので、俺はスマートフォンを起動し、YouTubeの踊ってみたを色々と見ていた。
その中で、特に目を見張った動画があった。
ある女の子が、顔を隠して踊っていた。
俺がモーションキャプターを使った女の子が踊るのとは違う、現実の女の子が踊るものだ。
その踊りはとても洗練されていて、歌とマッチした素晴らしいものだった。
思わず繰り返し何度も再生した。
この踊り、俺も踊ってみたいと思った。
二人が練習部屋から出たら、一度踊ってみよう、そう思うほどに。
ただ、予想以上に二人が長く居たため、出来なかったけれど。
うちでは練習部屋を使うのは18時までと決めている為だ。
それがないと、いつまでも俺が使うので、ルールとして追加されてしまったのだ。
まぁ自業自得なんだけどね。
父さんが帰ってきて、花乃から今日の話を始めた。
「おお! 父さんにも是非見せてくれ! 父さんの会社の仲間達にも見せるからな!」
そう言って笑う父さんに、つられて母さんと花乃も笑う。
まるで自分の事のように喜んでくれる家族達に、俺は涙腺が緩むのを感じる。
そうしてその日は少し早めに寝てしまった。
俺が踊った動画が、まさかその日の夜にアップロードされ、配信されているなんて夢にも思わず。
翌朝、いつものように学校へと向かう。
朝食の間、やけにニヤニヤとしていた花乃を訝しげに思いながら。
机に突っ伏して、朝のホームルームを待つ。
横から昨日の踊りを話していた人達の話題が聞こえてくる。
「おい! 昨日の夜アップされた踊ってみたを見たか!?」
「見た見た! マジすげぇ踊りだったよな! 他のとレベルがちげぇ!」
「あれプロだろ? だってあのキャシーさんが絶賛してたじゃん」
「いやそれがあれが初投稿でプロじゃないらしい。キャシーさんの友達らしくてさ、リアルは見せたくないからモーションキャプチャーにしたんだってよ! 絶対可愛いよなアスカちゃん!」
「ぶほっ……」
「「「?」」」
「ゲホッコホン……か、風邪かなぁ……」
一瞬吹き出してしまった。
後で一言足して、なんとかごまかせた。
も、もしかして俺のあの踊りか? いや、アスカちゃんって言ってたし、女の子だよな。
なら俺じゃないはずだ。
俺は飛鳥で男だし。女の子に間違えられた事なんてないし。
うん、違うはずだ。違うに決まっている。
もんもんとした思いをしながら迎えた昼休み。
いつものように弁当を食べようとカバンから取り出したところで、廊下がざわざわと騒がしくなってきた。
うん、デジャヴ。
「飛鳥君、居る!?」
「は、はははひっ!」
しまった、またきょどった返事を。
しかし、そんな事は気にしていないのか、学校のマドンナはスマートフォンを取り出し、ある動画を見せつけてきた。
「あ、これ……」
俺が昨日踊ったやつだ。
音楽と踊りが一体化し、背景が作られていた。
昨日二人がしていたのは、これだったのか。
そして、気になる所を見た。
さ、再生数75万回!? たった一晩で!?
「凄いわよね、まだまだ伸びるわよこれ」
麗華さんの言葉に、気になったのか後ろから覗いてくるクラスの女の子が居た。
「あ! これ昨日のだ! 私も見たよ! すっごく上手いよねこの子!」
「何何? おお! これ俺も見たぜ! すっげぇよなこれ! プロかと思った! 何回も再生して見てて、つい寝るの遅くなって寝不足だし!」
それから、あれよあれよと人が集まってきて、話題は昨日俺が踊った動画一色だった。
麗華さんも何故か自慢げだ。
悲しいかな、俺だと気付く人は居ないけれど。
女の子が踊ってるわけだし、リアルで女の子のキャシーさんが紹介したって言ってるみたいだから、その友達なら女の子だって思うだろう。
つまり、俺に連想するわけがないんだけども。
でも、それでも良い。
俺は、俺の踊りは、皆に評価されている。
人前では踊れない俺だけど……別の姿をした俺なら、皆に見てもらえる。
次は、どんな踊りを踊ろうか。
そう思って麗華さんを見たら、にっこりと微笑んでくれたのだった。
読んで頂きありがとうございます。