表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第1話「妊娠発覚」



 妊娠が発覚したのは、5月10日(火)の夜。




 なんとなく尿の匂いがいつもと違うと感じ、仕事終わりに妊娠検査薬キットを買って家に帰ってきた。


「まさかね。期待して陰性な可能性もあるよね」


 そう独り言を呟いてトイレに篭る。初めて手にした検査キットは、漫画やドラマで見たまんまの形だった。まさかとは思いつつ、しかし、もしものことも考えての検査。

 尿をかけると、すぐにうっすらと線が入った。1分後にはくっきりと線が浮き出て「陽性」と確定する。



 過度に期待はしていなかったが、胸の中の風船が破裂したような感覚だった。


「妊娠……した」

 

 衝撃半分、喜び半分。


 ふわあっと口元が緩み、思わずお腹を撫でた。



 相手は、同棲中の彼氏、真司だ。

 彼とは4年付き合っており、結婚の約束もしていた。付き合った記念日である11月に入籍しようかと話をしていた時の妊娠の発覚だった。


 排卵日を意識して生活はしていたが、旅行中にゴムを忘れてしまい、流れで性行為を及んだという思い当たる節はあった。世間では、デキ婚はふしだらだとか、順番がおかしいとか、マイナスな印象が強い。でも、その時は正直、この人となら妊娠しても大丈夫、という謎の自信があった。正直なところ、世間で言う順番はどうでも良かった。好き同士で一緒にいるんだから、順番になぜ囚われるのかと。男女関係、結婚している者同士と同じ。未来をともにする覚悟があるなら、順番に囚われず愛しあって何が悪いのかと。

 私は自分なりの持論があり、この瞬間、焦りや罪悪感は微塵にも感じなかった。



 真司は、子供が大好きだ。

 ゴールデンウィークに地元で開かれる親戚のバーベキューに彼を招待し、家族に紹介したことがあった。うちはサマーウォーズ並に親戚が多く、交流も多い。親戚や従兄弟に馴染んでいた真司を見て、心の底から大丈夫だと安心したこともあった。体操のインストラクターをしている彼は、子供と関わることが多く、扱いもうまい。親戚のちびっ子達と遊ぶ真司は、良い父親になるだろうと確信もした。




 検査キットの結果が出て10分ほど経過した後、すぐに真司は帰ってきた。

 普段通り帰宅後すぐに手を洗って部屋に入ってくる彼に、キットを見せながら「妊娠した」と報告する。真司は目を見開き、口を開いた。


「おお!」

 

 短い言葉を発し、意外とあっさりした反応。しかしすぐにニヤついた。


「俺もついに父親になるのか」


 そんな真司を見て、私もつられて笑った。


「順番逆になっちゃったね」


 そう返しながら、私は彼の手をお腹にあてる。人より脂肪が厚めの私。すでに多少ぽっこりしているお腹を、真司は優しく撫でてくれた。




 この瞬間から、私達は夫婦になったと思った。


 私は妻へ。彼は夫へ。


 この瞬間から、私は母親になり、彼は父親になった。




 それぐらい、あの日の喜びは忘れない。


 それぐらい、幸せな瞬間だった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ