プロローグ「診断日」
これは、作者の実話を元に書いたフィクションです。
産まれることは、当たり前ではありません。「命」について深く考える人が、増えますように……。
(やっぱりダメなんだ)
そう自分の中で確信したのは、お腹の超音波画像を産科の医師が3人確認している時だった。
超音波をあてているのは、産科の部長クラスのベテラン医師。そして私の担当医だった若い男性医師の本田先生と、その上司であろう落ち着いた女医の武松先生だった。
「やっぱり、頭蓋骨がそうだね…診断は合ってるよ。リムボディウォール……間違いないね。小脳が…そうそう。ここが中枢で……脊椎が屈曲して…右の足背が背屈してるな…」
超音波の専門と呼ばれている年配医師が、二人の医師に画像を指差しながら小声で説明している姿を横目に、私は覚悟を決める。目の前にあるエコー画像を見ても、その時は不思議と涙は出なかった。夫も眉間に皺を寄せて、画像を見つめていた。
「杉元さん、長い時間ごめんなさいね。今から赤ちゃんの状態を、説明させていただきます」
年配の先生が、私の顔を見ながら声をかけた。
「赤ちゃんはね、リムボディウォールコンプレックスという、病気をお持ちです」
初めて聞いた疾患の名前で、最初は全然聞き取れなかった。
「リム?」
「LBWCって略すのですが……体の部分がいくつか欠損している状態です」
先生の言葉を聞いても、頷くことしかできなかった。
赤ちゃんの診断がついたのは、
2022年7月8日 妊娠13週5日のことだった。