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傍観者は罪人ゆえ  作者: 灯色
第一章
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望み

どうして私は向こう側にいけないのだろうか。埃がかった床に這いつくばって俯きながら思う。髪の毛はべったりと湿っていて、毛先から水滴が落ちる。そこら辺の水道水と変わらないはずなのに、何故か生臭く感じる。手の甲は熱く、変色している。

「おい、黙るなよ。ドブネズミが。」

見上げると、腕を組んで見下ろす女生徒がいる。本当にドブネズミを見るような、軽蔑した眼差しで。周りには一緒に面白がって笑う生徒。少し遠くにはちらちらと見ては見ぬ振りをする生徒。

「勝手に上を向くな。気持ち悪い。」

そう言って頭に衝撃が走る。足で踏まれたのだ。埃と水が混じった床と顔がぶつかる。後頭部と鼻がジワジワと痛む。周りの生徒はさらに私を笑う。遠くにいる生徒は、顔を背けた。

私も前までは…関係の無い生徒だったのにな。

以前は別の生徒がターゲットだった。その子を助けたら私がターゲットになった。まあ、よくあるいじめのサイクルだ。もちろん、先生も見て見ぬふり。私は間違ったことをしたのだろうか?これは、偽善なのだろうか?床の水が口に入る。思わず咳き込んでしまう。そして、足をどけずに見下ろす彼女がネズミは息をするなと言う。もう一度強く踏まれる。鈍い音を響かせ、鼻から赤い血が流れる。これが私の日常。全員が経験したことがあるかと言われたらそうとは言えないが、少なくとも似たような経験をしたことがある人達と同じ日常。私は生きているかどうかも分からなくなっていた。


放課後、屋上に行く。上を見る。そこには綺麗な青い空が広がる。あの真っ黒な眼差しは無い。

下を見る。多くの生徒が帰宅したり、部活をしたりしている。まるでアリのように小さく見えた。あの中に、私をいじめる生徒も居るのだろうか?だとしたら、今私は彼らを見下ろしている。そう思うと、なんだか心が軽くなった。もう一度上を見て空を飛ぶ鳥を見る。

羨ましい。

あんなに自由なのだ。今となっては鳥でも猫でも輝いて見える。きっともう、見上げることも見下ろすこともないのだろう。

恐らく最後は、また彼らに見下ろされて笑われるのだろう。

足を踏み出し、身体が宙に浮く。いつまで意識があったかはわからない。最期の時は長いような短いような感覚だった。

私はやっと今、鳥になれた。

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