東西南北
あいさつ回りを終えて、やっと食事にありつくことができた。
私自身の育った境遇もあり、私には比較的同情的な視線を向けられている。私は隅っこで、食事をしていると。
「花音さーん! 一緒に食べましょー!」
「……えと、たしか」
「西谷 純恋だよん! 覚えられないよね! 結構な人数いるからね!」
と、西谷という女性が私の隣に立つ。
この食事はビュッフェ形式で立食という感じのパーティで席はない。
「本当に女の子? 男の子だったりしない?」
「女だって……っす」
「年下なんだからタメでいいよぉ~。でも本当に男の格好にあってる……。あ、これ深い意味はないよ? 嫌味とかそんなんじゃないから……! ほんとに!」
強調してくる時点で怪しいだろう。
「携帯持ってる? 連絡先交換しようよ!」
「あ、はい」
連絡先をゲットした。
西谷という名字が追加される。西谷という女の子は明るく活発的に感じた。髪は短くそろえられており、元気いっぱいって感じの子。
「あらら~。二人とも仲が良いですね~」
「恋ちゃん! 恋ちゃんだ!」
「純恋様~。私も混ぜてくださいまし~」
「いいよ! 三人で話そ! ね!」
「はい~」
北海 恋もこちらにやってきた。
兄のほうはあちらで友人たちと楽しんでいるようだ。話す内容もちょっと聞こえてきて、父親のことなど大変だったなということを話している。
「おう。オレもいいか」
「あら~南国様~」
「いいよいいよ! かわいい女の子なら大歓迎!」
と、大量の食事を持ってやってきた長い髪で褐色肌の南国 千尋という女の子。ボーイッシュで、一人称がオレという珍しい女の子だ。ちなみにこの中で一番おっぱいがでかい。
「でも南国様が来るなんて珍しいですね~」
「ん、オレは市ノ瀬に興味がある」
「私に?」
「ものすごく強そうだしな。オレもそういうやつは気になるしな」
「それはそれは。有名な不良ですからね~」
「……おい」
「不良?」
「どうりでな。見たことあるぜ。お前蒼眼の死神だろ」
と、南国は私のことを知っているようだった。
「へぇ。じゃあ殴り合いとか強いの?」
「負け知らずだろ。あの清治という男をとっちめた時の動きでわかる。噂は本当だな」
「噂?」
「喧嘩では負け知らず、死神のように相手の命を狩りつくすと」
「命は取らねえよ?」
それだとさすがにこの場にいるわけがない。
気絶させたことはあっても殺したことなんて数えるほどもないというか、一度もない。喧嘩した相手は全員生きてるよ。
「へぇ。有名なんだ~」
「はい~。ですが優しいのでおびえなくてもいいですよ~」
「わかる! 優しそうだもんね!」
「……どこが?」
私の顔を見て優しいと判断できるのか?
目つきはちょっと鋭いほうだから怖いといわれ続けているし。なんならクラスの奴らから大体避けられてるし。
怖い、と評されたことはあっても優しそうって評されたのは初めてだな。
「私は別に優しくなんかない」
「そういうなよ。純恋の第一印象は大体当たるんだぜ? 優しいって思うんならお前は優しいんだよ」
「前にお会いした時から感じましたが、自己肯定感が低めですよね~。生まれた境遇のせいでしょうか」
「……かもしれん」
そういうと、西谷はなぜかぶわっと涙を流し始めた。
「ふん。そんなきたねえ娘と話すなんて変な奴だよな、お前ら」
と、どこから声が聞こえてきた。
そっちのほうを見ると、眼鏡をかけた男性で、確か名前は。
「東山……。相変わらず嫌味な奴だな」
「差別意識はどうかと思いますよ~?」
「うるせえ。俺はお前らのためを思ってアドバイスしてんだぜ? そんな生まれも汚い女と話してたらお前らの格が落ちる」
「誰と話そうがいいじゃん。なに? それを言いにわざわざ近づいてきたの? ご苦労さん。バカみたいだね」
「ふふ」
「俺は忠告したからな」
といって、去っていった。
ぷんすこ怒って再び食べ物を食べ始める。
「なんなのあいつ!」
「あれとはかかわるなよ市ノ瀬」
「あの方は少々選民思想が高いですからね~」
たしかに、あれとはかかわらないほうがいいかもしれない。
「まぁ、汚い生まれってのは確かだろ。自覚はしてる」
「……そういう自覚あるのも問題だな」