麗しき美少年
北海家との話し合いも折り合いが付き、北海家は帰っていった。
私はふぅと溜息を吐く。
「チッ……」
「花音。舌打ちしないんですよ」
と、窘められた。
「これで計画は順調だ。本番は明後日の……あ」
「どうかしたんですか?」
汗をだらだらと流している茂治さん。
少し焦ったような顔をしていた。
「一応、私のパーティーはドレスコードがあるんだが……」
「……あー」
「どういうことだよ」
「花音のドレスがないんですよ。今すぐ仕立てるにも本番が明後日ですし……。私の好むドレスは花音には似合わない者ばかりですし……」
「忘れてた……。ここ最近ドタバタだったからな……」
「……別にドレスは。っていうかスカート履きたくねえからズボンじゃダメ、っすか」
「ダメではないが……」
いいのか。
「なら茂治さんのを貸してもらえると嬉しいっす。私スカートとかドレスとかはそこまで好きじゃないんで」
「……たしかに、私のものは似合うかもしれない。よし、試着してみよう。私のものですまないがすぐに用意させる」
そういって、数分後にはそのタキシードが運ばれてきた。
黒いタキシード。だがしかし、手触りがよく、高級品だということがすぐにわかる。私はタキシードを着て、髪をセットアップしてもらった。
髪をオールバックで、そして多少メイクをするようだ。
「長身で、スタイルもいいのでこういう男装みたいな格好もお似合いですねぇ~」
「そ、そうっすか?」
「よし、どうでしょうか」
と、鏡を見せられる。
そこにいたのは、ちょっとりりしい顔つきの私の姿。髪を全部後ろにやったのもあるが、割とワイルドな感じになっている。
もともと髪はそこまで長くないし、肩までかかるくらいの髪だからオールバックが似合う。これでたばこ加えてたらさらにかっけえと思うが、私はあの煙が苦手。
「エスコートする男の人にも見えなくはないな」
「はい。では、みせにいきましょうか」
というので、私は茂治さんたちに恰好を見せた。
「うわ……」
「うわってなんだようわって」
「いえ……。予想以上にかっこよかったので……。写真撮って衣織にも送ってあげましょうか」
と、スマホを取り出しパシャパシャと写真を撮り始める。
「似合っている。本番はそれでいこう」
「うす」
「ただこうやってみると……。本当に弟に雰囲気が似ている」
「血筋を感じますね」
「……似合ってないほうがよかったか」
「いえ。そうではありませんよ。あなたに一切の罪はありません」
面影を感じるといわれて、私はなんとなく複雑だった。
私の父親である清治さんとは会ったことはない。が、ろくでもないというのはわかる。そんなろくでもないのと血のつながりを感じるといわれたのなら。
私も将来、ろくな奴にならないのだと思う。
「さて、衣装問題はそれで終わりだ。あとは本番までゆっくりと休んでほしい。私からの願いだよ、花音くん」
「……うす」
「本番、君は針の筵になる。もちろん、きちんとみなには事情を説明するつもりではあるが。多分、君の人生で、一、二を争うほどきつい場所となるかもしれない。それに備えておくんだ」
「うす」
もとよりきつくない場所なんて今まではなかった。
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