話し合い
掃除屋に遭わないようにと本土に上陸……は出来なかった。
というのも、現実世界でお呼びがかかり、急にログアウトさせられてしまう。急にログアウトした場合はペナルティとして10分間のログイン禁止。
私は体を起こし、誰がログアウトさせたのか見ると執事さんだった。
「花音様。茂治様がお呼びです」
「茂治さんが? わかった……す。今行きやす」
私は体を起こし、執事さんの案内のもと、向かった先は応接間だった。
中に入ると、少し気まずい感じの月能と茂治さん、そして、知らない女性二人と男性一人。
「え、えーと……」
「その、清治さんの奥さま。北海様です」
「あ……。えと」
「まぁ、とりあえず座るといい」
茂治さんにそう促されたので、私は大人しく席に着く。
「初めまして。私は北海家の北海 農と申します。あなたは名前をなんと言うんでしょう?」
「あ……市ノ瀬 花音っす……」
「花音さん。そんな緊張しないでも大丈夫ですよ。ほら、あなたたちも名前を教えてあげなさい」
「北海家長男の廉だ」
「私は恋と申します〜」
「ども……」
廉と恋。覚えた。
「それで、今、歳はおいくつで?」
「16……っす」
「俺の一個下か」
「なるほど。16年前に……」
居心地が悪い。
この人たちからしたら、私は奪っていった相手の子。坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いというように、私のことも恨むはず。
そりゃ居心地悪いよ。
「あなたは不倫して出来た子供だと知っていました?」
「……そこまでは知ってました。相手が誰だったかとは知らず……。小さい頃に親に捨てられたきりなので……」
「ふむ……」
「……その、ごめんなさい。私は本当に何も知らないんですけど、あなたたちを傷つけてると思い、ます」
「知らなかったんなら仕方ねえだろ。で、その不倫相手の方はいねえのかよ」
「……数年前に自殺したようだ」
「…………」
この話し合いはただただ虚しくなりそうだった。
「不倫した挙句子供を捨てて自殺だァ?」
「それは……なんていうか、アレですねぇ〜」
同情の目を向けるな。
私は……。
「とりあえず、兄である私からも謝罪を。彼女に関しては私が全力で支援しますので。どうか彼女だけは恨まないでほしい」
「あ、いえ。頭を上げてください! 悪いのは全部あの人ですから」
「全くだ。俺は尊敬してたってのに! 不倫して、子どもを産ませた挙句捨てて! クズじゃねえかよ!」
「ん〜」
「どうした?」
「なんか見覚えあるんですよね〜あなた〜」
私はお前に見覚えないが。
「とりあえず、あの人とは離婚しますが……」
「はい。なんでしょうか」
「これまで通り、その、北海家に支援をお願いしたいのです」
「もちろんだ。コチラの理由で離婚となる。支援は今まで通り続けさせてもらおう」
「それならばいいんです。その、金の話になって申し訳ありません」
「いや、構わない」
大人の話し合いが続いていた。
恋のほうもなにか考えているようで、のほほんとうーんと唸っている。
「あぁ、わかりましたぁ! あなた蒼眼の死神さんですね〜!」
「…………」
「蒼眼の死神っていやぁ……俺も知ってるぜ。中学時代喧嘩無敗の伝説の……」
「遠目でお見かけしたことあったんですね〜。なるほど〜」
「そんなやつが……。わからねえもんだな」
「…………」
「ふふ。死神さん。普通に話していいんですよ〜。私たちはあなたに怒ってませんから〜」
と言われましても。
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