満足
暴れるのをやめたからとはいえど、私は満たされるはずもなく。
ただただ、気だるい日々をすごしていた。ただ、息をして生きているだけ。私自身、まだまだ自分の存在意義に何も見いだせず。
「クソ、がぁ!」
私は魔物を蹴り飛ばす。
チョコレー島の一部のエリアでは魔物が出る。まぁ、弱いが。
「なんなんだよくそが……。私にどうしろっていうんだよ……」
魔物に八つ当たりしているとフレンドメッセージが届いたのだった。
オイリが究極のお菓子作りのための材料を手に入れたこと。そして、ワグマも無事に手に入ったらしく、キャンディがお菓子を作り終えるということだった。
私はいらんとだけ答えておき、また再び魔物に八つ当たりする。
「ガアアアアア!」
「死ね!」
私は思い切りぶん殴り、一発では死ななかったので再び殴る。
弱い。弱すぎる。これじゃ私は満足できねえ。強いやつと戦わせろ。こんな雑魚じゃ私は満たされねえぞ!
私は、まだいらつきが止まっていなかった。
「おやおや。荒れているねぇ」
「……アルテミス」
「話はまぁ……ワグマから聞いたが、予想以上に荒れてるな」
「ハーレー……」
ハーレーは槍を構える。
「槍、買ったんだな」
「ああ。ちょっと手合わせ頼むわ」
「わかった」
「なら、私は審判になろうか。そして、最初に言っておくが、ワグマくんは君のことを吹聴したわけではないということを。ハーレーとミナヅキだけに言っていたが、私は勝手に聞いていただけさ」
「別にいいよ。やるんだろ。ハーレー」
「今のお前に勝てるかどうかは知らないがな。じゃ、いくぜ」
と、ハーレーが力強く一歩踏み出した。
槍先が私に迫ってくる。私は手で槍をつかみ、引っ張った。そして槍を握りしめていたハーレーを一発ぶん殴ろうと拳を構えた。その瞬間、ハーレーは私の顔面に頭突きしてくる。予想外の動きだったため躱しきれず、ダメージを受けた。
私は思わず槍を放す。
「まず一発」
「……やるな」
「……笑顔?」
「いい。実にいいな。お前」
「笑った……? おかしい。私は笑わないと聞いていたが」
強い、な。
ならば、ちょっとばかり集中して挑むことにしよう。今の一撃は私の油断のせいだ。私は、思わず笑みをこぼしてしまう。
「今度は私から」
「……! ハーレー、逃げるんだ!」
「……逃がすわけねえよ、こんな強いやつ!」
私は距離を詰める。
呆気に取られていたハーレーのどてっぱらに鋭いパンチが入った。ハーレーはうぐっと呻き、吹き飛んでいく。
「予想以上に精神が壊れている……! 笑ったのはそのせいだ」
「壊れてねえっての。別に殺すつもりはねえし」
「だがしかし……今のはすげえ効いた……。もう一発受けたら死ぬぜ……」
「なら、もうおしまいだな」
この程度とは思わない。
ハーレーは槍に触れたばかりだからな。まだこんなものだろう。だがしかし、伸びしろはものすごくある。
「もっと槍の経験を増やしたらまだ強くなるだろ。まだ触れたてだからこんなもんだ」
「……批評ありがとよ」
「どういたしまして。で、突然喧嘩吹っ掛けてきたのはワグマの差し金か?」
「……まぁ、それもあるが、俺として一回見てほしかったのもある」
「半々か。ま、喧嘩しなきゃ満ち足りないってわかってるからなあいつも。ゲーム内で喧嘩させるつもりなんだろうよ」
「ゲームでは現実の法律は適用されないからね。合理的だ」
「だがしかし、弱かったら意味がねえんだよ」
弱い相手だと満ち足りるわけがない。
蹂躙は、楽しくねえからな。
「俺は満ち足りる相手になりえたかよ」
「安心しろ。笑ったっていうんならそれが証拠だ」
「そうか」
安堵したかのようにハーレーも笑った。
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