屈辱
目が覚めるとベッドの上だった。
手足が縛られている。監禁……?
「目が覚めましたか」
「なんだこれ」
「目が覚めてあなたが再び暴れ出したら厄介ですから」
「……なんかやったの? 私」
「覚えてないんですか?」
覚えてない?
私は眠る前のことを思い出してみる。そういえば、ゲーセンで……。
思い出すと、少しばかりの脱力感が私を襲う。
「あー……」
「思い出しました? まったく。学校をサボってどこいくかと思えば……。ゲーセンで喧嘩して、どこかに喧嘩しに行こうとしてたでしょう?」
「……あぁ」
「やめてください。あなたは今は阿久津家の一員なのです。それに、怪我でもしたら私と衣織が心配します」
「……別にいいだろ」
「良くないです」
「そーそー。私も心配するってぇ。かのちん、強いけど弱いよね」
「私が?」
私が弱い?
反論する気力もなかった。隣では月能がうんうんと頷いている。
「もう少し心を強く持ちなさい」
「望まれたとか望まれてないとかどうでもいいじゃんね。私が同じ立場だったら……とりあえず、寝て頭をスッキリさせて、それから忘れるかな」
「それはお前だけだよ……。単純バカ……」
「単純でいた方がいーんだよ。世の中、辛いことばっかだしね」
わかったことを……。
「まぁ、もういい。それは。それより……」
「なんですか?」
「人を鎮めるのに麻酔使うか普通。アフリカゾウじゃねぇんだぞコラ」
「はっはっはっ。いいじゃないですか。力では止められないと踏んでましたしね。あの赤髪の大王とやらを一発でのしたのは少々想定外でありましたが」
「……おかげでまだ意識が朦朧とするし頭痛えし」
「当たり前です。本来、あの麻酔は人間にうつと三日三晩眠らせますからね」
「……」
「マジでタフですね。フィジカルの化け物ですか?」
三日三晩眠りって相当やべえ。
私の体マジでタフだな。いや、麻酔全部注入される前に引っこ抜いてどこかにやったが。
「で? 私に何か罰あるんだろ?」
「もうしました」
「したぁ?」
「麻酔打って手足を拘束してる時点で罰です」
「それもそうだ。てかもう暴れねえから解放してくれ」
「だ……」
「…………」
「もしかしてかのちん」
「…………」
衣織が何かを察したようだった。
「おしっこ、したいの?」
「…………ノーコメント」
「よし、外します」
屈辱。
手足の拘束を解いてもらい、トイレに向かう。私はそのまま用を足し、部屋に戻ったのだった。
部屋に戻ろうとすると、なにやら茂治さんの書斎から声が聞こえる。
「とりあえず……伝えるのは早かった。これは私のミスだ」
「そうでございますね」
「否定はしないか。当たり前だな。だがしかし、これからはあの子のフォローに徹するように。家の全員に伝えろ」
「はい」
「暴れたのも、そういうことでしか満たされないからだ。これは私の家の責任。被害を受けた子や施設の修復、謝罪に向かおう」
そういって、部屋を飛び出してきたのだった。
茂治さんは私を見る。私は。
「その……すんませんした」
謝ることしか出来なかった。
茂治さんは私の頭にぽんと手を置く。
「気にするな。君の境遇ではそういうことでしか満たされないのは理解している。だが、今度からは私たちを信用するがいい。あの不出来な弟から産まれたとはいえ、君はやり直せる」
「……うす」
「尻拭いも、今は私がしてやる。今回の反省はしっかりとしておくこと。私からの説教は終わりだ」
「……ほんとに、すんませんした」
「はっはっはっ。まずはすんませんじゃなくて、ごめんと言えるようになろうか」
そう言って、茂治さんは出ていったのだった。
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