望まれてない命
私は今すぐログアウトするようにとワグマからメッセージが来たので、ログアウトしたのだった。
ベッドから起き上がったと同時に、ワグマが急いでやってくる。その顔は少し焦ったような顔で、なにか慌てているようだった。
私にずかずかと近づいてくると。
「これ見てください!」
と、二つの書類を手渡してくる。
それは私の身辺調査書と書かれた紙とDNA鑑定結果と書かれた紙。私はまず身辺調査書に目を通す。私の生みの親の市ノ瀬 カサンドラと、名前だけはわからなかった阿久津 清治という名前が書いてある。
阿久津?
「阿久津って、うん?」
「…………その、言いにくいんですが」
「……まさか」
「そのまさかです」
なるほど。この阿久津。阿久津家に所縁がある人物。考えてみるに茂治さんの弟か兄かどちらかだろう。
その男と、不倫していた。
その清治という男が私と生みの親を捨てた。理由はなんとなくわかった。というのも、不倫していたのがばれると、立場上まずいからだろう。だからこそ、知らぬ存ぜぬを突きとおし、捨てるしかなかった。
そして、この焦っている月能を見て、なんとなく察する。
「本来、私はいなくてもいい……むしろ望まれてない存在か。阿久津家にとっては」
「それは否定しません」
「……なんかちょっと全否定された気分だわ」
やっぱり、私はだれかを不幸にする。
私がいることで、不倫を隠すことも難しくなっているからだ。子供ができてる以上、私を調べれば逃れられない証拠となる。
「……そうか」
DNAのほうにも目を通してみると、親子確率は99%と書かれている。こういうのはたしか、否定する場合は0%と書くが、立証された場合は99%と書くはず。
本当に私は阿久津家とのつながり……。それも、本来あってはならないつながりが発覚したということになる。
「なるほどなぁ……。これはさすがに……くるな」
「……」
「それで、阿久津家として私はどうしたい? 殺すのか? それともどこかに追いやるのか? それとも監禁か? ここまで尽くしてくれてるんだ。今はなんだって受け入れてやるよ」
「……いえ。それのどれもやりません」
月能は溜息を吐く。
「公表します」
「……正気か?」
「隠しているのは、さすがに阿久津家としては許せません。一週間後に行われるお父様の誕生会。そこにその叔父夫婦も出席します。その時に、その事実を突き付け、父は叔父と絶縁するつもりです」
「…………」
「そこにはもちろんあなたも出席してください」
「私も……?」
私はちょっと参っていた。
というのも、ちょっとだけ受け入れがたい。というか、ちょっとばかりの絶望。なんか、事実を知ってしまったというのもあり、どうでもよくなっている。
私は望まれて生まれてこなかったことをきちんと知ってしまったこと。
私は……。
「気を確かに。辛いのはわかりますが」
「もってる。大丈夫。受け入れるのに時間かかるけど。うん。ちょっとさすがに今回のこれは……」
「……一人になりたいですか?」
「ああ。ちょっと一人にさせてくれ」
私がそう言うと、月能は立ち上がる。
「では、しばらく一人にするよう言っておきます。辛い事実を突き付けてしまったこと、申し訳ありませんでした」
と、月能が出て行った。