魚男
私たちは魔女キャンディについていく。
案内されたのはお菓子の家だった。ビスケットの壁に飴細工の窓……。
すごい外装だった。
「エクレアのクッションだ……」
「ゼリーのベッド! ボヨヨンしてるぅー!」
「オイリ。あまりはしゃがないのです」
そう言ってオイリを鎮める。
私たちの前に珈琲が差し出され、つまみとしてクッキーも渡される。
「それで、手伝いとはなんでしょうか」
「私の究極のお菓子作りを手伝ってもらいたいのじゃ」
「究極のお菓子作り?」
「そう! あらゆる人を魅了すると言われるお菓子でのー。その素材集めが難しいのじゃ」
「その素材を集めてこい、と?」
「そうじゃ。一つはものすごく強いモンスターが出てくる洞窟、一つは入ったら迷ってしまう森、一つはチョコレー島のどこか……にあるのじゃ」
三つ。だから三人。
「三人じゃなくても複数で挑めばいいのでは」
「それがそうもいかん。文献によると、その食材は二人きりを好むと書いておる。つまるところ、一人で挑まねばならないということであろう」
「なーーる」
二人で行くと出現しないもののようだ。
その三つを三人で分担、か。
「私はまぁ、強敵だろ」
「私は迷いの森だ〜!」
「となると、チョコレー島の捜索は私ですね」
役割がきちんとしている。
「役割決まったかの? では私たち二人がゼーレくんとオイリくんをそれぞれ入り口まで運ぶからの」
「おう」
ということで、私は外に出ると魔女キャンディに腕を掴まれ、体が宙に浮く。
そして向かった先はチョコレー島東部の海岸にある洞窟だった。
「必要なのはお菓子の塩結晶というものじゃ。奥にある。が……強い敵がおるのでの」
「それは聞いた。強ければ強いほど戦いがいがあるというものだ」
「うむ、やる気満々のようじゃの! では、頼んだ!」
と背中を押され、私は洞窟内に歩いていく。
それにしても……。あの婆さんは本当に信用していいのか。お菓子の家が登場するヘンゼルとグレーテルでは、魔女は悪い魔女でヘンゼルを食おうとしていたはず。
その魔女を模しているのなら、私たちを殺そうとしてここに送り込んだのでは?
「まぁ、敵と戦えるみたいだしなんだっていいけどな」
私は洞窟内を歩く。
洞窟は小さな宝石の鉱床が光を放っており明るかった。道中は魔物も何も出ず、奥にすぐに辿り着く。
目の前には地底湖のような感じで水が溜まっており、いかにも魔物が出そうな中心部に青い結晶が置かれている。あれが塩結晶だろう。
私はとりあえず地底湖の水を飲んでみる。
「しょっぱいけど……美味い。シュワシュワしてる。これサイダーだな。塩サイダー」
塩味がちょうどいい。
「もしかしたら水中戦もあるかもしれないな。水中で戦ったことないが……」
まぁいいだろう。
私は塩結晶が置いてある舞台に降り立った。塩結晶を手にした時、地響きが起きる。
すると、塩サイダーの地底湖から何かが飛び出してきた。右手には金棒を持っている上半身が魚の人。
「ギャギャギャ! 餌発見なり〜!」
金棒を構える魚男。
私も拳を構え、まずは先手を取ることにした。
「先手必勝!」
私は思い切り魚男をぶん殴った。