オカルトと科学
常世の竜という種族、新たなスキルを得た。
「見事。また、手合わせ願おうか」
そう言って剣をしまう男。その瞬間、目の前の光景が変わり、谷の上だった。
戻されたようだ。だがしかし、戻されたのは私だけ。他のみんながいない。
「……さて」
スキルの確認をしよう。
常世之闇というスキルは、一定範囲を暗闇で覆い尽くすスキルということ。真っ暗で何も見えなくなるらしい。
ただ、自分は見えること。これは割と便利だ。
黄泉平坂。これはゾンビを多数召喚し襲わせるというもの。どちらも魔力は使うが……。問題は常世の竜という種族だ。
常世の竜。説明は常世の闇に染まりし竜人。
怨念がその鱗などに込められ、呪いをかけるという。
「なるほど。ステータスは攻撃、防御、そして魔法防御も上がった。上位種族みたいなもんか」
あの男は常世の化身みたいなもんだろうな。
あれは強かった。今の私では勝ち目がない。ああいう敵は初めてだ。本能というべきもので、勝てないと悟ることが出来る相手。
アレとはもう二度と戦いたくねぇな……。
「……まぁ、先に拠点戻るか。アイツらにメッセいれりゃ分かるだろ」
私は拠点に戻る。
拠点に戻ると、知っている奴が立っていた。というのもつい先日知り合ったアルテミスという白衣を着た錬金術師。アルテミスはふむ……と何か悩んでいた。
「何悩んでんだよ」
「おぉ、ちょうどいいところに来たではないか! ゼーレくん。頼みがあるんだ」
「頼み?」
「私も君たちのクランに入れてくれやしないだろうか」
「……は?」
アルテミスの発言は驚くことだった。
アルテミスは事情を話し始める。
「私は見ての通り戦闘職ではないだろう?」
「あー、そうだな」
「そのことでクランのメンバーが猛反発したのさ。私以外は皆戦闘職だからね。サンライトとデイズは追放に反対していたが、数が数でね。多数決の原理みたいなやつさ。所詮、多数の声には少数の声が押しつぶされる。サンライトも、追放派の意見が多いことを悟り、しょうがなく私を追放したという感じさ」
「ふーん……」
あそこはたしかに戦闘職ばっか寄せ集めたクランみたいだったな。
「というわけで、私は今無所属なんだ。クランには入っておきたくてね。だがしかし、知らない奴のところにいくのも嫌でねェ。君のクライノートをあてにしてきたわけさ。どうだい? ポーションなんかはもう完璧に作れるさ」
「あー……。まあ、しょうがねぇ。一応リーダーには通してやるが……」
「ふっ。恩に着るよ。そのリーダーとやらはどこに?」
「ちょっとクエスト中。まぁ、待ってようぜ」
私はとりあえず中に案内する。
サンライトのクラン……。サンライトがうまくまとめてるとはいえ、あの血の気の多さは異常だな。
「……んで、サンライトの奴らはどうする? 私が〆てもいいが」
「別に構わないよ。彼らの心情も少しは理解できるからね。サンライトは戦闘をメインとしたクランだから私のようなやつは異端なんだよねェ。異端者は潰される、これは遥か前の歴史から当たり前のことさ。別段と気にする案件ではない」
「案外ドライだなお前」
「そうかい? まぁ、涙なんか流す方が無駄だということさ。彼らとは所詮、ゲーム上だけでの付き合いだからね。が、しかし……」
アルテミスは紅茶を飲む。
「大勢に責め立てられるのは流石に精神にはくるものだねェ。心理としての知識は深まったよ」
「笑ってられる内ましだろ」
「それもそうだ」
と、談話していると。
たでーまー!と元気な声が。
「ゼーレ。勝ったなら勝ったと……。どちら様?」
「ん? ああ、入団希望者。私の知り合いなんだけど……入れていいか?」
「……まぁ、私たちも強引にこいつ入れましたし構いませんよ」
「ふふ。こいつ呼ばわりか……」
「おや?」
「む」
と、アルテミスとラプラスが睨み合う。
「やぁやぁ、これはこれは未来を見通すラプラスの悪魔くんじゃないか」
「科学屋……!」
「ラプラスの悪魔ごっこはまだしているのかい?」
「そっちこそ……オカルトを科学で証明するという妄言をまだ貫いているのかしら」
と、なんか険悪だった。
「妄言ねェ。科学はオカルトなんぞとは違い、昔から研究者の手によって理論づけられたものだよ。理論も根拠もないオカルトとは違うさ」
「オカルトも遥か昔の文明からあったわ。占いは科学よりも歴史が古いの」
「知り合いか?」
「あいにく、このオカルト少女とは同級生でねェ」
「気に食わない存在……。私入れるのは反対よ」
「私は別に君がいても構わないけどねェ。科学の邪魔をしないでくれるのなら」
「…………」
「ど、どうします?」
いや、私に振られても。