周りのための見栄
私は白衣の女の部屋に通された。
部屋はフラスコや錬金釜などが置かれており、ファンタジーの中のサイエンティスを感じる。
「改めて……。私はクラン:サンライト所属の錬金術師、アルテミスさ。よろしく頼むよ」
「俺はリーダーのサンライト。よろしくな」
「私はゼーレ。ま、知られてるようだから言う必要もねえと思うがな」
私はコーヒーを差し出された。
「さっきはすまないね。君があの死神ということの証明をすべく、けしかけたのさ」
「まったく。面倒なことさせんじゃねえよ」
ちょっと疲れたじゃん。
私はコーヒーを飲む。酸味が少しあるが、味わい深い。
「それで、この部屋に通したってことは何かお願いがあるんだろ?」
「察しがいいな。その通りだ」
「メンバーから遠ざけるってことは相当メンバーに知られたくないことか?」
「いや、そうではない。俺としての見栄のためだ」
「見栄?」
「俺も、デイズと共に鍛えて欲しい」
と、顔は整っているサンライトが頭を下げる。
自分の見栄のために頭を下げるか。
「俺はクランを率いるリーダーだから、強くならねえとならない。最近、周りの奴らを見てて思うんだ。俺より強いって。だから……」
「ふぅン……」
あくまでも周りのための見栄か。
たしかに、リーダーには強さも求められる。弱々しいリーダーなど誰もついていかない。
少なくとも、私がもともといた不良界隈ではそうだ。弱肉強食。強いものが全てだった。
「別に構わないが、私が受ける道理がねェ。デイズは私のクラスメイトだからというのもあった」
「……報酬なら支払う」
「別に金なんかいらねーよ。もっと別のもんだ」
「…………」
「分かってんだろ? 薄々は。私が望んでいること」
「勝てるビジョンが見えない。負ける戦いは避けたい」
「勝負に絶対はねぇよ。それに、負ける戦いを恐れるなんざチキン野郎だぞ」
「……わかった。ハンデをくれ」
「じゃあデイズと同じ、私はスキルを一切使わない。あんたはスキルを使っていい。これでどうだ?」
「わかった」
サンライトはレイピアを取り出した。
珍しい武器を使う。剣というには切れず、切るというよりかは突くという闘い方をする武器だ。
分類は剣だが、突くほうが威力がでる武器。
「行くぞ」
「ああ」
サンライトはレイピアで、私の喉元を狙う。
私は素手でレイピアを掴み、グイッと引き寄せた。サンライトは自分の得物を手放す。
なるほど。なんとなくは分かった。こいつは愚直すぎる。
「いきなり急所を狙う奴がどこにいんだ。読まれるぞ。そして、レイピアはこの剣身部分は切れねえからこうやって掴める。得物を手放すのは大きく負けに繋がるぞ」
「……あぁ」
「それは前々から私も注意していたのだがね」
「レイピアなら…‥そうだな」
私は同じようにレイピアを使ってみる。
喉元を狙う。サンライトは止めようと手で剣身を掴もうとしたが、私は一度身をひき、再び喉を狙う。
咄嗟の判断ができず、喉元にレイピアが突きつけられた。
「勝負事は割とそうなんだけど、勝負っつーのは読み合いだ。こういうフェイクも交えて戦わないといけねえ。特にガードされやすいレイピアはな」
「フェイクか……」
「あんた、馬鹿正直な性格してるだろ? 馬鹿みたいに真面目だからフェイクなんて考えないだろ」
「そうだね。こいつは超がつくほどの真面目さ。私たちが通う学校ではこいつより品行方正で馬鹿真面目なのは見たことがないくらいにね」
「デイズより戦闘センスを感じないのは頭が堅いからだな。正直者ほど馬鹿を見るとかいうだろ? 世の中はまさしくそれだ。もう少し不真面目になれ」
「不真面目に……。さ、酒とかやるのか?」
「それは行き過ぎ。私も酒とかタバコとかは好きじゃねえからやってねぇよ。例えば……授業のノートを流しがきするとか、勉強中にサボって夜食を食うとか」
「わ、わかった」
馬鹿真面目な奴ほど損をするのは戦いも同じ。
意表を突くからこそ自分が優位に立てる場面もある。
「で? アルテミスはアドバイスはいらねえのか?」
「私は支援職さ。錬金術師だから戦いには基本的に参加しない。するとしても、特製の爆弾を投げつけるだけさ」
「それだけならなんもアドバイスはいらねぇな」
「そうだね。それに、私としてはサンライトに対するアドバイスでも充分なくらい学べたさ。そして、わかったことは、ゼーレくんは理論的に戦っている天才ということ。もちろん天性の才能が大幅を占めてるだろうが、それでもキチンと頭の中に理論を立てている。実にいい! 考えを止めないことは素晴らしいことだ!」
ぺちゃくちゃと褒められた。
素直に喜んでおくか。