◇ 阿久津 月能と父親
私は車に乗り家に帰ってきた。
たくさんの執事たちが出迎えてくれる。私は乱暴にカバンを投げわたし、部屋に向かおうとすると、ある一人の執事が『お父様が用事があるようです』と告げてきたので、私は出向いてやることにした。
「帰ってきたか」
「あら、お父様。もうお怪我はいいんですの? 私の友人である不良少女に負けた気分はいかがかしら。それがつらいのでしたらもっと寝てて大丈夫ですよ」
「親に対して口が悪いなお前は……。そのことで話がある」
お父様は私をソファに座らせました。
「まずは、悪かった。俺としては……その、親心というのもあるんだ。不良と付き合うことで、そういう子に育ってしまったらと思うと嫌だというのもあった」
お父様は神妙な顔で続けます。
私は適当に相槌を打っておき、茶菓子を食べてました。
「お父様は私の交友関係に厳しすぎますよ。ああしろだのこうしろだの。私だって人柄を見て判断してます。お父様に縛られる筋合いはありません」
「……そうだ、な。お前は俺より見る目がある」
「そうでしょう? それだけなら私は行きますよ。ゲームするので」
「待ってくれ!」
と、呼び止められました。
私は扉に手をかけたところで立ち止まります。私自身、まだちょっと怒ってるのを実感してますね。父親の言うことは聞きたくない。けれども……。
こんな親でも、花音のもと両親よりははるかに恵まれているということは、事実ですし。花音のことを聞くと、少し私も親について考えないといけませんか。
「私も……気を付けますよ。あの子たち以外はそこまで深く付き合うつもりはありません。心配せずとも、私はお父様が心配するような子供にはなりませんよ」
「……あ、ああ」
「それで、なんですか?」
「……が、学校は、楽しい、のか?」
と、おそるおそるといったような口調で聞いてくるお父様。私はお父様のほうを振り向き、満面の笑顔で答えてあげた。
「楽しいですよ」と。
阿久津家の名は伊達ではなく、知らない人はほとんどいない。
私自身、そういう出自ということで、花音とは違った腫れもの扱いだけれども、花音たちは普通に接しているし、毎日が楽しい。
「月乃おばあさまも言っていた通り、普通の高校は楽しいですよ。お金持ち高よりずっと……。家のことも、つながりのことも考えないで済みますからね」
私が尊敬する月乃おばあさまも、普通の高校にいき、夢野、球磨川といった普通の女子高生と交友関係を築いていたという。
おばあさまはいつでも、その高校の時を思い出すらしく、懐かしい、戻りたいと毎日窓の外を見てはつぶやいていた。
今はもう……。帰らぬ人。高校時代の友人たちと仲良く天国で暮らしていれば幸いですね。
「私も……おばあさまみたいに楽しく過ごしますよ。なので、余計な心配や余計な口出しは不要です。お父様。心配する親心もわかりますが、私ももう高校生。独り立ちの準備も始めないといけないんですよ」
「……そうか。わかった。悪かったな」
「いえ。では、私はこれで。それと……私もごめんなさい、です。クソ父親とか言ったのを謝っておきます」
「……気にしていない」
私はお父様の書斎を後にしました。
さて、ゲームといきましょう。二人が待っています。