不屈のチビ
放課後、学校の廊下にて。
日向という女の子が弟子にしてくれと頼んできたのだった。
「弟子ってなんのだよ」
「ふ、ふりょーの!」
「不良の? あのなぁ……」
そんなのに憧れるのはだめだぞ。
「強くなりたいんです!」
「いや、強くなりたいって……。誰かとバトるわけじゃねえんだから」
「げ、ゲームでも強くなるには現実世界でも強くなる必要があるんです!」
あー。なるほど。
「お前もフリワやってんのか」
「はいっ!」
「それで強くなりたいから喧嘩を教えろと……。あのなぁ……」
たしかに強くはなるが、喧嘩なんてのは人と人との殴り合い。誰かを傷つけることにはなるし、武術の心得などというもんは通用しねえ。
どちらかが戦意喪失するまでやるから、怪我なんてのはつきもん。
「強くなりたいんなら空手とか習え。日向さんのちっせえ体じゃ喧嘩は無理だ」
「ちっさいとか、そんなのはどうだっていいんです! 私は強くなりたいんですぅ!」
「あのなぁ……」
「お、お金っ! こういうのはお金ですよねっ! いくらですかっ!」
「そんなのはいらねえよ。喧嘩ってのは体躯が割とものをいうんだよ。ちっせえとその分パワーが弱い。それに、現実世界で鍛え上げてもゲームじゃ意味ねえよ。ものをいうのは戦闘のセンスだ。それを磨きてえんなら死ぬ気でモンスターに挑んで殺されて、また挑むこったな」
私は近くに合った自販機に金を突っ込む。
オレンジジュースを買い、日向さんに投げて渡した。
「私は弟子にするってのは断る。それはまぁ、慰謝料みたいなもんだ。じゃ、また月曜学校でな」
私はそう言って玄関ホールのほうに向かうと、衣織と月能が待っていた。
「待たせたな」
「ふふ、待っていませんよ。それにしても、弟子入りですか」
「見てたのかよ」
「そりゃ見てますよ。ですが、日向さん見る目はありませんね。花音はスパルタですから」
「そりゃそうだ。強くなるんだったらスパルタ以外ねえよ」
「厳しすぎもよくないよー……。もーかえろー。ちょっとナイーブだからゲームやりたぁーいー」
「結構怒られてたもんな」
「かのちんのせいだよ!」
「お前が置いてたからだろ」
私は悪くない、お前が悪い。
私は外靴に履き替え、外に出ようとした時だった。がしっとカバンをつかまれる。私は思わず引っ張られてこけそうになった。
「なにすんだ衣織……。って、日向?」
「あきらめません! 私は強くなるんですぅ……」
「はぁ!?」
「スパルタでもいいです! 強くなるのに近道はないってのはわかってます!」
日向さんは、私のカバンから手を放し、地面に頭をつけた。
「お願いします!」
と、下校時間の下駄箱の前でそれをやられてしまう。
衆人環視が痛い。こりゃ断れる雰囲気じゃねえし、なにより、たかが強くなりたいってだけでこうも簡単に頭を下げる。
なんかその厚顔無恥さが少しむかつくが……。しょうがねえ。
「……チッ」
「やっぱだめですか……?」
「日向さん。花音が舌打ちしたときはOKってことですよ」
「一年以上付き合ったらわかるけど、かのちん、いやいや受け入れるときは舌打ちするからね~」
「いいんですか!? やったぁ! じゃあ改めてよろしくお願いします! 日向 今日子! プレイヤー名はデイズ! 王都の隣のズルデン侯爵領の領都にいます!」
「迎えに行かせるつもりかよ……」
なんで私がそこまで世話をやかにゃならんのだ。