阿久津 月能は令嬢である
翌日。学校で変える準備をしているとクラスメイトがなにやらうるさくなっていた。
窓の外に注目している。窓の外に何かあんのかよと思いつつ、帰る支度が終わったので、衣織を呼びつける。
「衣織、帰んぞ」
「あー、わかったー! ちょっとまってね」
「早くしろよ」
衣織は教科書を乱雑にカバンに突っ込み、玄関ホールに向かい、下駄箱に上靴を入れて外靴を下に落として、履く。
外に出ると、なにやら校門前に人だかりができていた。
「すっげえ人だかり。有名人が来てんのか?」
「かもねー。でもうちの高校、そういうイベントやるっけ? 一か月後には卒業式だけど、でも卒業式ぐらいしか行事もうないよねえ?」
「誰か待ってんじゃねえの? ったく、邪魔だな……」
と、人をよけながら校門をくぐると。
「おーい、市ノ瀬に花本。よぅ」
「……お前らかよ」
人だかりの中心から聞いたことがある声が聞こえた。
ハーレーにミナヅキ……もとい本田と菅原の二人。今を時めく高校生アイドルの二人。その二人が校門前に立っていたらしい。
群がる女の子をかき分け、私たちに近づいてくる。
「ごめんごめん。僕たちはこの子達と用事があるんだ」
「悪いな」
と、私たちの腕を引っ張り、少し速足でその場を後にした。
喫茶店に入り、コーヒーを注文する。
「ちっ、群がってきやがって……」
「いや、変装もなにもしてねえのが悪いだろ」
「それもそうだな。で、阿久津はいねえのか?」
「今日なんかお休みしたよねー?」
「珍しいよな。風邪ひいたとかも聞かねえし」
なにかあったんだろうか。
あいつは休む時は私たち二人にメッセージを送ってくるってのに今回はそれがない。少し心配だが……。
それより今は目の前の奴らだ。
コーヒーが届き、ガムシロップと砂糖を入れる。
「で、お前らはなんで来たんだよ」
「いや、ちょっとね。僕から話があるんだ」
「話?」
「阿久津……月能のこと」
「なんかあったのか」
私がそう言うと、ちょっと困ったような目をする菅原。
「その、なんだ。月能の父親は厳しいやつでな。人付き合いも相当選ぶタイプなんだが」
「……なるほど」
「え、どゆこと?」
「察しがいいね。市ノ瀬は」
なんとなくわかる。
というのも、これは明らかに私が関与しているからだ。
「私だろ」
「そう。蒼眼の死神っていう名前は本当にでかいらしくてね……。そんな不良とかかわりがあることがその父親にばれた」
「大方、それで今もめてるんだな」
「そう。ちょっと嫌味な言い方になるけど、これは君のせいだよ。市ノ瀬」
だろうな。
だから私はあいつと付き合うのは本来は控えるべきだったんだ。まぁ、これはあいつ自身が招いた結果でもあるから、私とあいつのどちらも悪いんだがな。
「そんなことないよ……。悪くないもんかのちんは」
「そうだな。市ノ瀬はなんも悪くねえ」
本田と衣織が私をかばう。だがしかし、私は悪評ばかりの女だからな。そういうやつと付き合うっていうことはこうなることは容易に想像できる。
それは、あいつ自身も想像していたはずだ。
「これだけは伝えておこうと思ってね。しばらく、家のごたごたで月能はゲームもできなくなると思う」
「だろうな。私たちじゃどうもできねえし、あいつが解決するのを待つしかねえ」
「…………」
「あいつ自身が私たちを頼ってきたら、力を貸してやろうぜ」
「うん、そうだね。で、かのちん」
「なんだよ」
「コーヒー苦いから飲んで……」
「てめえ、なんで頼んだんだよ!」
「だってみんな頼むしかっこいいじゃん!」
そんな理由で飲めねえコーヒー頼むんじゃねえ!
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@mayo_narouが自分の垢です。