星の夢
その病気にかかった娘はフリューレル伯爵の屋敷に寝たきりになっているらしい。
伯爵は勢いよく扉を開け、医師に星の花を見せる。
「伯爵! それだけじゃダメなのです……! 星の花の花粉を鉱物とするスターカワセミの水晶がないと……」
「な、なな、なんと……」
と、伯爵は崩れ落ちた。
「……そして、そろそろタイムリミットです」
と、ベッドには大きく腫れた顔を持つ女性。息を荒くしており、とても美しいとは言えない顔をしている。
スターカワセミの水晶……。ああ、もしかして。
「これっすか? スターカワセミを倒したら出てきたんすけど」
「なっ!?」
「なんと!?」
私は水晶を取り出すと、白衣を着た初老の男性が驚いた顔でこちらを見る。
「あれを倒したというのですか!?」
「まぁ……」
「でかした、でかしたぞクライノート! それをもらってもよい……いや、買い取らせてほしい。いくらがいいのだ!」
「あー、じゃ、じゃあ10万グラン……」
「それだけでよいのか!? もっと吹っ掛けてもよいぞ!」
「じゃ、じゃあいくらでもどうぞ……。相場知らねえ……から。えっと、ほら、早くしないとタイムリミットが来るんじゃないか?」
「そうじゃ。もらうぞい!」
と、医師は水晶を砕き、星の花をすりつぶして混ぜていた。
黄色く輝く粉末が出来上がり、医師はそれを腫れた顔の女の子に飲ませる。すると、その瞬間、女の子の体が黄色く光りだした。
「万病に効く星の薬! いや、星の夢か……!」
「星の夢?」
「この大地が作り出した万能薬の名前ですじゃ。あらゆる病気や毒、呪いもすべて治してしまう。買うにはこの国の予算を費やしても足りぬ薬……。あの隕石の大地の攻略が至難の業なのじゃ」
「あー、あー」
「これで娘の病気が治った……! 完治したぞ! 万能薬は、まさに夢! この星の、夢!」
伯爵は両手を上げて喜んでいた。
「あ、ああ、あれ? お父様。なぜそんなに……」
「娘よ! 意識がはっきりしたか! よかった……」
「なにがどうなって……。はっきりと覚えておりませんが、なにがあって……? げほっ、げほっ」
「喋るな、病み上がりなのだから……」
と、伯爵はそのブロンド髪の女性を横たわらせる。
「感謝する。貴殿の名前を聞いてもよろしいか」
「ゼーレっす」
「ゼーレ。いい名前だ。ゼーレ殿。この度のこと、至極感謝する。感謝してもしきれないくらいだ。ありがとう」
「い、いえ……」
「王に相談してよかった。それと、これは王からのことでもあるが……。クラン、クライノート。我がフリューレル伯爵家が後ろ盾になろう。貴殿の力は恐ろしいものだ。その力を利用しようとするものが必ず現れる。貴族である私の後ろ盾があれば相手できるだろう!」
「あ、あざっす?」
「生まれた時からの不治の病であった皇疱瘡を治すという我々の夢、その夢をかなえる星の夢を作るための材料を自らの死をいとわずに採取してきていただいたこと。まことに感謝申し上げる」
と、伯爵が首を垂れる。
「余った星の夢はもっていくがいい。この量でも売れば巨万の富を築け、使えば呪いも何もかも解けるだろう。噂によると、ある加護の条件を満たせばその加護と反応するといわれてもいる」
「……わかりました。ありがたく」
この星の夢は強くなるために必要な重要パーツかもしれない。