祝福を
私自身、生まれるべくして生まれたわけでもなく、出生自体が大きな呪いだった。
誰かを幸せにするわけじゃなく、むしろ不幸にした。祝福なんて言葉は私にはなく、呪い。ただの忌々しき呪い。
「これでわかっただろ。これは噓偽りない私の出生だ」
「意外と壮絶ですね」
「だろ? お金持ちのあんたらとは違うんだよ」
「ですね。だから普段から踏み込ませないんですか私たちを。信用できないんですね」
と、図星を突かれる。
心の底ではわかっているかもしれないが、やはりちょっとだけは拒否反応はある。別に嫌いというわけではないのだが……。
まぁ、でも襲われたら怒るぐらいではあるし、信用できないというのはちょっと違うかもしれないが。
「…………」
「…………なんか喋れよ」
少しの間静寂が流れた。
「喋れと言われましても……。ちょっとだけ予想外の重い内容でしたから」
「お前が喋れって言ったんだから包み隠さず話したんだろうが……」
「私としては……。児童養護施設にいって、なんやかんやあってぐれて、引き取られてっていう感じでしたから。ぐれた理由が予想外でした」
「お前意外と頭ハッピーだな……」
「幸せ者ですから」
そういうこと、よく私の前で言えるよな。
「まぁ、出生やぐれた理由はおおむね理解できました。内容は心底同情に値するものではありましたね」
「お前意外とドライだな……」
「これでも私、ちょっとだけあなたの気持ちを理解しているんですよ?」
「人の気持ちがあれば理解できるだろ」
「していますとも。だからこそ決めました」
「決めたって、なにがだよ」
月能はにやりと笑う。
そして、両手を広げ、言い放った。
「私があなたを祝福して差し上げましょう!」
「……は?」
「生まれた後悔など絶対にさせません。私という存在があなたを幸せにします。かけがえのない存在にさせてみせましょう」
「何言ってんだ」
「私には幸いにも、お金は山ほどあります。私の生きる役割はあなたを生涯かけて幸せにすること。私自身も、ちょっと今は思うところがあるんですよ。私自身、おばあさまやお母さまと比べて格段と優秀というわけでもありません。むしろ、阿久津家においては普通も普通の存在です。おばあさまは自分の役割を見つけ、その役割を果たせとおっしゃっておりましたから。普段から役割のことを考えていたんです。ですが、今日わかりました」
ずいっと顔を近づけてくる。
「私の役割は花音。あなたを幸せにすることです。おばあさまと同じように」
「別に幸せにしなくても……」
「単なる自己満足ですから。私に依存させてあげましょう」
「逆に怖えよそれ」
依存させるくらいに幸せにすると豪語する月能。私は溜息を吐く。
すると、扉が開かれた。
「かのちー---ん!」
「うわ、てめえなんで泣いてんだ! ってか鼻水ぐしゃぐしゃで抱き着くな!」
「壮絶だったんだねえ! 感動じだよぉ!」
「てめえ聞いてたのかよ!」
「だって二人して積もる話があるっていうから……。私だけはぶられるの嫌だから……扉の外で聞いてた……」
「チッ……」
「その舌打ちも愛情表現だよねえ゛!?」
「うるせえ!」
「わたじもじあわぜにずるよお゛」
泣きじゃくる衣織。笑う月能。
幸せにすると豪語するからには、本当にしてもらわねえと困るな。