モンキッキとキャツラ
新年。
目の前の二人は頭を下げていた。
「ごめんなさい」
「すいませんでした」
「この貸しは高くつけるからなこの野郎……。お前らもう酒飲むんじゃねえ」
元日早々、酒に酔っ払い私に運ばせるということをしでかした。
私がまだ怪我とかしてない状態だったらなんとかなったけれど、怪我してるときにそういうことされるとマジできつい。
「まぁ、顔上げろよ。ゲームしようぜ。衣織。まだてめえはボスモンスター倒してないだろ」
「やらせていただきますっ!」
ということで、ゲームにログイン。
ログインすると、ハーレーからメッセージが届いていた。ハーレーは無事ボスモンスターを一人で討伐できたらしく、獲物の前でピースサインの自撮りをメッセージで送ってきていた。
「やっぱ一番乗りはハーレーか」
あれは割と戦えるほうだから一番手だとは思っていた。
ま、それはいい。私はとりあえずモグラ討伐の報酬であるお金をクライノートの拠点で貯金しようと戻ると、なにやらお客さんが来ていた。NPCではないように見える。
となると、プレイヤー。
「クライノートに入れさせてほしいんす!」
と、男女二人が雇いNPCに頭を下げていたのだった。
「おい。それNPCだ」
「ふぇっ!? あっ! クライノートの方ですかっ!」
「そうだよ。で、入れさせてほしい?」
「俺らクライノートに入りたいんす!」
と、土下座してお願いしてきたのだった。
私が困っていると、後ろから月能が入ってくる。
「どうしたんですか」
「いや……こいつらが入りたいっていってな」
「こいつら? まぁ、入団希望者ですか……。とりあえず話だけ聞きますが……」
と、乗り気じゃない態度で話を聞くといっていた。
私たちは応接間に入り、ソファに座る。
「改めて、俺はモンキッキ。こっちはキャツラっていうんす! 俺らをどうか!」
「どうかと言われても……。私たちのギルドは内輪で作ったものですし、今のところだれもいれるつもりがないというのが本音でして……」
「そこをなんとか……」
「うーん。そういわれましても……。それに、戦闘系のクランはたくさんあります。なのになぜ私たちのクランを?」
「名前を見たとき、かっけえ!と思ったんす! ドイツ語で宝石って意味っすよね?」
「わかるのか」
「俺、ドイツ語独学で勉強してるんで!」
どうでもいい情報ありがとう。
「んで、どうすんだよ。断るんなら私が断ってやるぞ。お前強く出れねえ質だし」
「うーん……。でも、追い返すのも気が引けるといえば引けるんですよね」
「内輪で作ったクランだからな。さすがにこいつらだけ知らねえってのは嫌だぜ」
「そうですね……。ではお願いしてもいいでしょうか」
「ああ。憎まれ役は私が買ってやるよ」
私は憎まれることに慣れてるしな。
「っつーわけで、駄目だ。かっけえ響きだろうけどな。さすがに内輪で作った以上今は人はいらねえんだわ。そんなに大勢抱えるつもりもねえし、知らねえアンタらに私たちも気を使いたくない」
「そうっすか……」
「私たちの誰かが知ってる奴ならまだしも……」
「お、俺とゼーレさんは会ったことあるっすよ? 現実で」
……マジ?
「ほら、中学の頃、同級生だったじゃないっすか。情報の……」
「情報屋のサル! てめえか」
「へっへっへ。中学時代はお世話になったっす。ね? いいじゃないっすか蒼眼の死神様! 俺を助けると思って!」
「ええ、サルならなおさら嫌なんだけど」
「なんでっすか!? 俺、割と重要な情報とかあげたじゃないっすか!?」
たしかに情報屋のサルの情報は割といいものだった。けどな。
「お前なぁ。喧嘩よええんだもん」
「そこ基準っすか!? 俺、このゲームでもたくさん情報を集められるっすよ!? ほら、これリストっす! ね? ね? 俺は現場より会議室のほうが得意なんすよ!」
「じゃあじゃんけんな」
「それで決めるほど軽くないっすよね!?」
「あなたの知り合い?」
「まぁ、誠に遺憾ながらな……」
「じゃあ完全に外の人ってわけでもないんですね……。どうしましょう」
私はサルが持ってきたリストを見ながらどうしようか悩んでいると。
「ん? んだこれ。武闘家の上位職業のなり方……?」
「ああ、それ目玉っすよ! このゲームで上位職業とか特殊職業とかあるじゃないっすか。それってまだ誰も見つけてないんすよ! でも俺っちは見つけちゃったんす! 情報屋として優秀っしょ? これが今の食い扶持です」
「……ふぅん。こりゃ使えるか」
私はにやりと笑う。
「ま、いいだろ。入れてやる。いいだろワグマ」
「まぁ、ゼーレがいいのなら……」
「よし。じゃ、まずお前は情報屋として金を稼いで来い。もちろん稼いだ分は8割クライノートがもらう。文句ねえだろ?」
「……うっす」
「それと、裏切ったら殺す」
「俺信用ないっすね!?」
「ったりめえだバカ。中学の頃だってお前、最初は敵だっただろうがよ」
「でも仲間になったっすよね!? むしろ喧嘩相手のほうの情報を集めて渡してたじゃないっすか!」
「そんなもんはどうだっていいんだよ。でも、一番の問題は一度裏切ったことがあるというのが問題なんだぜ」
「ええ!?」
「裏切りの味を知ったやつはまた裏切る。だからこそ信用できねえ」
そういう裏切りが、味方であるはずの私たちも信用ができねえ。
「さすがに蒼眼の死神様を敵に回すようなことはしねえっす! これはもう絶対!」
「ああ、そう。で、そっちのキャツラって女は? そいつ、一度もしゃべってねえじゃねえか。なにか探ってたりしてるんじゃねえのか?」
「疑り深いっすね!? キャツラはただ無口ってだけっす! 俺だって声を聴いたことないっす!」
「……わかりやすい嘘をつくなよ」
「嘘じゃないっす! ねえ!?」
「嘘じゃないよん」
と、どこからか甲高い声が聞こえてくる。
ものすごいぶりっこのような声。私はちょっとむかっときた。
「だから喋りたくなかったのに。恐怖でしゃべらせようとしないでください。この声、コンプレッサーなんです」
「コンプレッサー……? コンプレックスじゃねえのか?」
「そうともいいますぅ」
ぶりっこの声。
「なんか聞いてるだけでむかつくなその声……」
「ね? 私の声って聴いてる人を絶妙にイラつかせるんですよ。もうまじで絶妙に。だから女からは嫌われるし、男もうわって声出すんです。うわって」
「なるほどな」
「本来私は超おしゃべりなんですよ? 本当におしゃべりをたくさんしたいんです。なのにこの声。恥ずかしくて恥ずかしくてたまったものじゃない。友達にだって声が恥ずかしいし、イラつかせたくないので筆談で会話してるんですよ? それなのにこの馬鹿は毎日喋れっていうし、学校で宇座がらみしてきててうざいうざい。ああ、でも信用してる人なら喋りますよ? 家族とかには普通にしゃべりますから。あと、あなたたちも信用できそうですし、あなたたちの前では喋ることにします。ああ、でもなんで私はこんな声に生まれたのでしょう。もっとアイドルのような声が良かったな。それかマドンナのような声。歌声は奇麗そうとか言われますけど、音痴ですしキレイもくそもないんですよね。ほんとこの声はマジコンプレックスで激萎えです」
「もういい。すごいおしゃべりだよあんた……」
一度口を開いたら止まらなさそうだな。
とりあえず、二人加入、か。