満身創痍の根性
大晦日夜。私たちは近くの神社にやってきたのだった。
私は周りから視線を集めている。
「一人だけ満身創痍で来てるから変な注目浴びてますね……」
「うるせえ。いてえんだぞコレ。こんなけが人を人混みに連れてきやがって」
私は頭に包帯を巻きながら列に並ぶ。
衣織と月能は振袖を着て、ひたすら初もうでの列に並ぶ。
「あー、助けてくれたねーちゃんだ!」
「あっ……」
と、駆け寄ってきた女の子。
「助けてくれた?」
「…………」
「今日は本当にありがとうございました。うちの娘を助けていただいて。お怪我のほうは……」
「あー、気にしなくてもいいっすよ。慣れてるんで」
「いえ……。その、運転手さんの方とも話し合ってこれを……。治療費の足しにしていただければ」
「別にいいんすけど……」
「受け取っておくのがマナーですよ。花音」
「……うす。ありがとっす」
茶封筒に入れられたお金を受け取った。ちょっと分厚い。中を見ると、20万円入っており、ちょっとした臨時収入。
車に当たるだけでこんな……。いや、節々が超痛えしもう二度と轢かれたくねえけど。
「ばいばーい!」
「おう」
と、女の子たちは帰っていった。
「女の子助けたんだ」
「車に轢かれそうになってたから投げ飛ばした」
「で、代わりに轢かれたと。そういうとこ、好きですよ」
「ありがとよ」
「かのちんって結構優しいよね? 割と自己犠牲の精神あるっていうかー」
「そんなんじゃねえよ。さすがに黙ってみてるわけにもいかねえだろ。目の前で轢かれそうになってんのによ」
「ですが、臆せず行動に移せるというのはすごいですよ。喧嘩してる不良の賜物でしょうかね」
「だろうな」
私は度胸はあるほうだと思っている。
列は少しずつ前に進み、私たちの番となる。私は細かいお金がなく、悩んでいると、隣の衣織が私の財布から千円札を取り出し、ポイっと投げる。
「おい、なにすんだよ」
「お賽銭投げないと神様叶えてくれないよ!」
「うるっせぇ。都合よく神様とか言ってんじゃねえぞ日本人。無神論者のくせに都合いい時に神様に祈るなよ」
「まぁ、こういうのは思い込むのも大事ですから。お願いしましょうよ。ほら、みんなで」
「ちっ……」
お願いすることなんてねえけど。
ま、健康祈願にしておくか。今年は健康でいられるように。
祈りが終わり、私たちは列から外れる。
そして、屋台のほうに向かった。屋台では射的などがあり、また、暖かい甘酒も配られている。私たちは甘酒をぐいっと飲んだ。
「ん、うめぇ。温まんな」
「…………」
「ぷはーっ! 甘くておいしー! でもあれ、あれれ? 体がほてってきた……」
と、甘酒を飲んだ二人の様子がおかしい。
「あつい……」
と、衣織が振袖を脱ぎ始めた。周りの男性がぎょっとした顔で衣織のほうを見る。私は衣織をぶん殴り気絶させる。
こいつ甘酒一杯で酔っ払ったのか!? 酒弱いのかよお前……。
「……えい」
と、今度は背後の月能が私の頭にチョップ。傷口にもろに当たり、尋常じゃない痛みが私を襲う。私は月能を睨むと、月能は顔を真っ赤っかにして、殴り合う構えをとっていた。
「伝説の不良ともあろうものがなにしてるんですか。暴力はだめですよ。大体あなたは出会った当初から……」
と、なんか説教が始まった。めんどくせえ酔い方してやがる。絡み上戸かよ。
私はあきれていると、周りの目がちょっと痛い。私は二人の首根っこをつかむ。
「帰んぞてめえら! まじで恥さらしやがって! この貸しはまじで高くつけてやるからな!」
両手に二人を抱え、私は石段を下りていく。
二人を持ち上げるのさえきついのに、満身創痍の時にやらせんな。マジで痛い。
「まじで覚えてろよてめえら……」
北海道に来てから災難ばかりじゃねえかよ。
私が石段を下り、タクシーをひろい、別荘まで戻る。月能の巾着から財布を取り出し、タクシー代を支払って家の前に着くと、警察のパトカーが止まっていた。
「どうしたんすか……」
「いえ、人を轢いたという自首があり、被害者を調べに……」
「それ私だと思うし、別に訴えるつもりもないんでなんもしなくていいです……。まじで変な酔い方しやがってこいつら……」
「酔い方? 未成年ですよねあなたがた」
「初もうでの甘酒っすよ。甘酒を飲んで酔っ払ってるだけっす。甘酒は高校生でも大丈夫っしょ」
「……そうですね。おい、坂本。運んでやれ」
「了解でーす!」
と、婦警が片方を担ぎ上げる。
「あなたよくその満身創痍の体で運んできましたね……」
「運ばないと人目がきつかったんっす……」
「人目がきついのはあなたのそのケガもあると思うんですけど」
「…………まぁ、名誉の負傷っすから」
「車に轢かれたことを名誉の負傷にしないでください。とりあえず、一応不起訴という形にはなりますが、相手のほうには前科はつきます。それでいいですね?」
「いいっす。相手に何の落ち度もないんで」
婦警が部屋まで運び、ベッドに寝かせる。
「それでは、夜分遅くに申し訳ありませんでした!」
と、警察も帰っていった。
まじで幸先不安……。