あまりにもタフすぎる女
365日の終わりの日。大晦日。
大晦日の日は月能が大忙しに動いている。衣織も料理に追われていた。
「おーおー、二人大変なこって」
「することないならゲームでもしてたらどうですか?」
「してほしいの? 面白そうだから見とくわ」
月能はひっきりなしにくる電話への対応、衣織は今日も来れない料理人。ということで料理。
私だけ手持ち無沙汰だった。
「そういうのムカつくんです……! ああ、こちらの話です。ええ。今年はありがとうございました。また来年も……」
「えーと、あと下ごしらえとかひつよーなものは……。まだ朝のうちだからいいけど夜になると本調理ー! いそがしー!」」
「…………ちっ」
流石に怒られるか。
私は外に出る。私には挨拶が来るような人ではないし、料理もできない役立たず。
せめて何かしてやりたいが、なんもできねえ。邪魔にならねえよう外でもぶらついてるか。
私は外に出ると冷たい風が私の身に吹きかかる。
「さびー……。大晦日だってんのに二人は働きもんだねえ」
少し歩いていた時だった。
親子で犬の散歩をしている人たちとすれ違う。どうも、とだけ会釈し、行こうとした時、声がする。
「あー、マリー! そっちいっちゃめー!」
「あ、こら!」
女の子が車道に飛び出した。
その横には車が。ブレーキを踏んで止まろうとしているが、このツルツル路面でそこまで急に止まれるわけがなく、女の子の目の前に車が迫る。
「何してんだよ」
私はしょうがないので助けてやることにした。
私も飛び出し、女の子の襟首を掴み引っ張る。そして、女の子を投げ、歩道の雪山にぼふっと。
だがしかし、飛び出した私はもちろん逃れようがない。私の体に車がぶつかったのだった。
私はすぐに受け身を取る。
車に突き飛ばされ、凍った路面に身を打ち付ける。
「いっ……」
「大丈夫ですか!?」
痛い。超痛い。けど、なんとか無事。
「大丈夫っす……。気をつけてくださいよ」
「きゅ、救急車!」
「呼ばなくていいっす……。運転してたお兄さんも訴えるつもりとかはないんで……。いってえ……」
「頭から血が……」
「あ? あー、大丈夫っすよ。こんなもん。じゃ」
こんな怪我したらぶらついてるどころじゃない。
私は家の中に入る。
「ただいまー……」
「おか……ってどうしたんですか!? 目を離したらものすごい怪我……!?」
「喧嘩して来たの!?」
「ちげえよ。車に轢かれた」
「「車に!?」」
大声が私の傷口に響く。
「大声出すなよ。まじで痛えんだから」
「出しますよ!? てか、なんで救急車呼んでもらわないんですか! 轢き逃げ? それなら家の前にある監視カメラとか……」
「轢き逃げじゃねえよ。私がいいつったんだ。病院行きたくねーし。寝てりゃなおんだろ」
「適当すぎるよ! てか轢かれても行きてるもんなの? 骨とか折ってない?」
「むち打ち程度だ。こんなもん慣れてる」
「あなたって身体ものすごく頑丈ですよね……」
「タフだよねー」
「うるせえ。それより軟膏あるだろ。傷口にぬってくれ。あと濡れタオル」
「はい。用意しますよ。あとでなぜ轢かれたか理由をお聞かせください」
まあ、それくらいはいいだろ。
私はソファに座ると、月能が救急箱を持ってきた。そして、軟膏を背中などの傷に塗り、頭には包帯をぐるぐる巻き。
一年の終わりが怪我でってついてねえな。