つまらなくなんかない
翌日、私はスキー場にやってきた。
「こりゃ爽快だぜ!」
スノボでゲレンデを滑り降りていた。
ものっそいスピード感。冷たいけれど気持ちのいい風。こういう体を動かすのはとても心地が良くて、とても大好きだ。
一気に下まで滑り降り、私はゴーグルを一時外した。
「それにしても二人……。おせえな。もう来てもいいころだし連絡が来てもおかしくないはずだが」
私は時計を見た。
午前10時。もう一時間もたっている。見に行ってみるか。一回別荘に。私はスノボを一時返却し、別荘まで歩いて戻る。
すると、なにやら手紙が置いてあったのだった。
「……なめた真似してくれやがって」
手紙にはお前の友人は預かった、返してほしければ一人でこの場所に来いと書いてあった。蒼眼の死神なら、一人で来いという言葉も付き添えられている。
蒼眼の死神……。その名前を知ってるということは少なくとも私と同じ不良仲間ということか。昨日の奴らの逆恨みだろうな。
「一人で来いなんて言わずとも一人で行くけどよ」
私は書いてある場所に一人で向かった。
向かった先は廃墟だった。よくある喧嘩スポット。私は廃墟に入ると、視線を感じた。見られているな。
私は奥に進んでいく。すると、二人が猿轡をかまされ、拘束されている。
「よぅ。本当に一人で来たな。蒼眼の死神」
「誰だか知らねえけど……人の連れを連れ去るなんていい度胸してんじゃねえか」
「ふん、連れねぇ」
と、男が衣織を蹴った。
私はそれを見た瞬間、気に食わないやつだと悟る。目の前の男は抹殺すべき対象だ。私の目の前でけるなんざいい度胸してやがるぜ。
「蒼眼の死神が連れだなんて、つまらなくなったなぁ!」
「ごふっ……」
「今ならまだ土下座して謝ってくれるんなら許してやるよ。そいつらを解放しろ」
「おーおー。不良の中では憧れともある蒼眼の死神がキレない? てめえの仲間じゃねえってのか?」
「もうキレてんだよ。とっとと解放しろ。殺すぞ」
「いやだね!」
と、もう一発今度は月能のほうに蹴りを入れた。
私は、まず一発その男をぶん殴る。男は思い切り体勢を崩した。
「は、はや……」
「その喧嘩買ってやる。警察にわんわん泣きついても知らねえからな」
「は、はは……」
私は顔を何度もぶん殴る。
男は気絶した。私は後ろを見ると、鉄パイプなどの武器を持った集団が控えている。私はぎろりとそちらをにらむと、ビビったのか、足がすくんでいる。
「き、規格外すぎる……。そいつが俺らン中で一番つええのに……」
「私の連れに手を出したんだ。覚悟はできてんだろ。蒼眼の死神の名……。その恐怖を知らねえってんならその身に覚えさせてやらァ……」
私はゆっくりと近づく。
死神はゆっくりと、静かに命を刈り取るものだ。それに倣おう。私は、先頭の男の顔を手で鷲塚む。そして、そのまま流れるように腹部に膝蹴りをかます。
「がふっ……」
「攻撃してこいよ。もう私キレてるからなにするかわかんねえからな」
「ひっ……」
そのまま、私は喧嘩となっていた。
しばらくすると、外からパトカーの音が聞こえてくる。騒ぎを聞きつけたのか、警察がやってきたようだった。
私は奴らの返り血に染まっていた。私は月能と衣織の拘束を解く。
「大丈夫かよ」
「え、ええ。派手にやりましたね」
「ああ。それより警察が来た。早いとこ逃げちまわねえと」
「それに関しては大丈夫ですよ。多分私の家の者です。わざとサイレン鳴らしてくるようにしました。警察にも許可をもらってます」
「そうかよ」
私は拘束を解いた。衣織は腹部を痛そうに抑えている。
「衣織、大丈夫かよ」
「なんとか……。でも超痛い……。これが痛み……」
「初めて攻撃を食らったやつみたいなこというな。ともかく、一応病院にいっとけお前らは。私は殴られなれてるしいいんだけどお前らはな」
「そうですね……。割と乱暴に連れ去られたので少しばかり関節が痛いです」
「だろ?」
ったく。ここでも私に喧嘩吹っ掛けてくる奴いんのかよ。どこいっても私の名前が知られてんのは厄介だな。
殴った連中に昨日の奴らがいたし、そいつらがばらしたんだろうな。ったく。めんどくせえマネしやがって。
「おい。てめえ、起きろ」
「はっ……」
「いつまでも寝てたらここで凍え死ぬぞてめえら」
「す、すんませんした!」
「ああ。ま、起こしたことで一つ言わせてくれよ」
私はリーダー格の男の顔をわしづかみにする。
「私の人生はつまらなくなんかなってねえよ」
むしろ、今は面白いくらいだ。
「そして、私が蒼眼の死神って呼ばれてることは察しづいてたんだろ部下から聞いて。だから力を試したいと喧嘩を吹っ掛けたわけだが……。もうこんな手は二度と使うんじゃねえぞ。今度やったら再起不能になるまで叩きのめしてやる。喧嘩を吹っ掛けてくんならいつでも真正面から来いや。いつでも受けてやる」
私はそう言い残し、男を解放してやった。
「部下たち起こして帰れよ。私も帰る。疲れた」