王との謁見
夫婦喧嘩が終わり、私たちはフレッツェン侯爵家の馬車に乗り王城に登城した。
西洋風のお城で、中は忙しく動き回る侍従の人たちや、偉そうな人々。せっせせっせと労働に勤しんでいるようだった。
「これはこれはフレッツェン侯爵。どうしたのですかな?」
「姫様を……見つけましたので」
「姫……様、を?」
「や、やっほー……」
「なんとーーーーー!?!?」
と、その面倒見良さそうな爺さんが走ってどこかに向かった。
すると、奥の方から。
「リリス!!」
その老人に連れられてやって来たのは上半身裸でムキムキの男。王冠を被り、王笏を手に持っている。
私は王様を見て。
「裸の……」
「やめなさい」
ワグマが私の頭を叩く。
「あ、あはは……。お叱りは……なしで」
「心配したんだぞ! よくぞ帰ってきてくれた。そなたらが見つけてくれたのか?」
「はい。このお二方が姫様を発見して、我がフレッツェン侯爵の屋敷に連れてきて頂いたのです」
「感謝する。褒美を与えねばなるまいな。その話は謁見の間でしよう。大臣よ、とりあえずリリスを部屋に連れ、一応医師に見せておけ」
「はっ!」
老人は行きますぞとリリスに告げる。リリスはぎゅっと私の腕を握りしめる。
私は思わず引っ張られた。
「ちょ、離せ!」
「お医者さんやだぁ!」
「駄々こねんな! 元はお前が勉強嫌だから逃げたのが悪いんだからな!」
そういうと、空気が変わる。
「……攫われたわけでは?」
「……………………」
リリスはヒューと吹けてない口笛を吹く。
「このバカ娘が……。まぁ、一応医師には見せておけ。人騒がせな娘だ……」
「なんで言うの!? なんでいうのゼーレ!?」
「口が滑りまして……。この度の不敬、誠に申し訳なく……」
「顔が笑ってる! ちょ、やっぱ逃げたい、離せ大臣! 私はお前の秘密知ってんだぞ!」
「ほう?」
「大臣、最近娘に臭いからって近寄られてないの知ってる! 離してくれれば娘さんと仲良くなれる秘訣を……」
そういうと、大臣は手を離した。
「何をしている大臣!」
「最近、娘が私を避けるのです……。仲良くなれると聞けてつい……」
「ついではないわ! ったく、フレッツェン侯爵殿。少々の暴力はよしとする。捕まえてくれ。王子たちも使っていいから」
「かしこまりました。はぁ……。毎度毎度手を焼かせるあのガキんちょ……」
と、フレッツェン侯爵もリリスが走って行った方向に走っていった。
王は私たちの方を向く。
「煩くてすまないな。ついてきたまえ」
「うす」
「うすじゃなくてはいですよ。きちんと敬語を使いましょうね」
「……はい」
私たちは王に着いていく。
王は謁見の間に入り、玉座に座る。肘掛けに肘をつき、頬杖をついた。
「うちの娘……。アレでも統治の才能は兄弟の誰よりもあってな……。人に良い政策などの案は出すのだ。だから迂闊に勘当もできず……」
「才能あるバカって大変っすよね」
「こら、ゼーレ!」
「よい。うちの娘はバカなのは認めよう。あの恥辱を見られてなお言い訳する気にはなれん」
王はそう言って苦笑いを浮かべていた。
「さて、まずはどこで見つけたかを聞かせていただきたい」
「はっ。フレッツェン侯爵領のレナント村の近くの森で、魔物の猿と過ごしておりました」
「魔物の……。あそこの森には化ける猿、ライアーモンキーがいたはずだな……。もしかしてそのモンキーか?」
「多分そうだと。私たちはフレッツェン侯爵領の領都でレナント村近くの行方不明事件を探ってまして、その事件を探ってた時に発見いたしました」
「ほう? レナント村での行方不明事件か……。事件は解決したか?」
「はい。原因はリリス王女の風邪を人間たちに看病させるべく、ライアーモンキーたちが人を攫っておりました」
「あのバカ娘……」
王様は頭を抱えていた。
「あの娘が逃げてあそこに潜伏してなければ、失踪事件は起きなかったというわけか……。それにしても、魔物が人間を世話するなんて変な話だな。魔物は人間と敵対するものだろうに」
「人間に友好的な魔物がいるのか、それとも、リリス王女の手腕によるものかはわかりませんが。これがことの経緯となります。なにか疑問な点はありますでしょうか」
「特にはない。魔物のことは魔物研究省にでも話しておこう」
王は私たちの方を改めて向き直す。
「それで、欲しい褒美はあるか?」
「そうですね……。実は私たちはここにはおりませんがあと三人仲間がおりまして、その三人と私たち二人でクランというものを組んでいるのです」
「ああ、クランか。その拠点となるものが欲しいと?」
「はい。貴族様も庶民の人も来やすい位置にある建物があればそこを拠点として欲しいということで」
「ならば貴族街の周辺だろうな。余っている土地があるし、作らせよう。そちらはないか?」
「私っす……ですか? うーん……。戦いの場……?」
「ないでしょう……」
「いや、あるぞ。近々、王都で武闘大会が行われる。その大会には騎士団の奴らや冒険者など腕に自信がある奴らが参戦する。それに参加したいのか? 冒険者ランクは?」
「……Dっす」
「ふむ……低い……」
だ、だけど戦いには自信があるから……。
「最低でもBは欲しいところだが……」
「上げてないだけなんで、無謀なのはわかってますが出来ませんでしょうか」
「……許可できん。勇気と無謀は違うものだ。強者どもが参加する以上、死を伴う危険性もある。そなたらのような神の使徒はすぐに復活するかもしれんが……。流石に死をそう易々と体験させたくはない」
ちっ。ダメか。
「だそうです。諦めなさい」
「……はーい」
「別の願いなら叶えてやろう」
「そうですね……。なら……」
クランの評判を上げておくことが大事か。
「今回のリリス王女逃亡事件、王が直々にうちのクランに依頼を出したことにして、私たちが解決したということにしてください」
「ふむ。なぜ?」
「王の依頼を受けたということで箔がつきますし、解決したとなると王家の信頼もあるということになるでしょう? 依頼を頼まれやすくなると思うので」
「ふむ。まあ、それぐらいなら良いだろう。ただの捜索依頼だがな」
ということで褒美をもらうことになった。
「拠点の方は少しばかり時間がかかる。それまで王都の観光でもしていて欲しい。宿泊先は……すまないがフレッツェン侯爵の屋敷に泊まるのだ。伝達事項があればそこに報告する」
「はっ」
「今回の件はこれでしまいである。退場せよ」
そう言って、私たちは謁見の間からでた。
普段緊張をしない私でも、ちょっと緊張した。