じゃじゃ馬でわがままなプリンセス
とりあえずその晩は村に滞在することになった。
姫様を村の人に預け、私たちはログアウト。翌日、昼ぐらいにログインして、姫様はお寝坊さんですねと笑っていた。
「それで、どこが悪いんだよ」
「こほっ……。ただの風邪、です。いろいろありまして川に落ちてしまいまして……。お猿さんたち、重病だと思い込んじゃって人間を連れ去って診てもらおうとしてたんです。本当にご迷惑おかけしました」
なるほど。
とはいえ、この身なり……。ワグマが言うには上流階級ということだ。たしかに、村人にしちゃ衣装の装飾が豪華だ。
薄汚れてるとはいえ、この服は庶民にはまず見えない。
「それに、言葉がきれいです。所作も庶民のものではない……。もしかして……どこかの貴族だったりするかもしれません」
「あはは……。いいところに生まれて育ったってだけですよ。商会の会長の娘なんです」
「なんていう商会ですか? その商会を調べたらあなたのことを探れますし、あなたの父親もあなたを探しているので届けなくてはならないのですが」
「……深く探らないでよ」
「あなたの素性を探らねばどうすることもできませんが」
ワグマは基本的に合理的に動くから、素性を探るしかないんだろうな。
「騙そうとするのは無駄ですよ。なんとなく私はあなたの身分の関しては想像ついております」
「…………」
「この紋章……。多分王族ではないですか?」
「紋章?」
「この宝石の中に記されている紋章です」
というので、私はその女性が首につけているペンダントの宝石をのぞき込んでみると、たしかになんらかの紋章があった。
その紋章はドラゴンのような形を描いている。
「ドラゴンだなんて神聖視されているもの、普通の貴族なら身に着けないでしょう。となると、身分は王族ぐらいではないでしょうか。この国では……龍を神聖視するのですから、それに見合った身分の方がこの紋章を持つはずです」
「王族は龍と同じように神聖視されるべき……か」
「そういうことです」
ワグマよく見てんなぁ。
「……ばれてるんならしょうがないか。でも、追手が来ても私を渡さないで」
「なぜ?」
「だって……城に帰ったら嫌ほど勉強させられるし、宰相に怒られるんだもん!!」
子供かよ。
話を聞くと、勉強に嫌気がさしたらしく、逃げてきたということ。この国の王女様で、王位継承権が与えられている一人。
この国は女でも王位継承権を与えられるということなので、将来女王になる可能性もある子ということ。名前はリリス・ル・ブリュンヒルデ。
「将来、王になるかもしれない女性がなんで勉強を嫌がってるんですか……」
「だって私は王の器じゃないんだもん! 兄上もいるし、弟も優秀だし! 私はこうやって遊んでいるほうがいいのぉ!」
「王の器とかそういう問題じゃないんですけどね……。まぁ、しょうがないですね。とりあえずこの領地を治めてるフレッツェン侯爵家に引き渡し……」
「……ここフレッツェンの領地なの?」
「そうですが」
「がーん! なんで寄りにもよってあんな堅物の……。駄目だよ! 絶対ダメ! あの堅物、絶対私を叱るもん!」
とおびえていた。
私はワグマに命令されたので、とりあえずおんぶする。暴れるが、そこは必死に力で押さえつける。
「暴れんじゃねえ!」
「やだやだー!」
「とんだじゃじゃ馬姫様ですね……。まぁ、行きましょうか」
「そうだな……」
「やだぁああああ!」
わがまま姫様を連行しなくては。




