神隠しの夜に
冬休みまで刻一刻と迫ってくる。
私は街を歩いていると、突然老婆が話しかけてきたのだった。
「冒険者さんかのぅ……」
「あ、はい。そうっすけど」
「冒険者さんに頼みがあるんじゃ」
というので、うちに来てくれないかということで私はその老婆に着いて行き、家にお邪魔する。
お茶を差し出された。
「頼みとは?」
「……息子が帰ってこないんじゃ」
「はぁ」
「息子は大工仕事をしていてのぅ……。ここから少し南に行ったところにあるレナント村に仕事があると言ったきり帰ってこないんじゃ。一日で終わると言ってたのにもう三日も……」
依頼はその息子さんを探して来てほしいということだった。
「……もしかしたら魔物に襲われてるかもしれん。もし、死んでいたら……遺品だけでも持ってきてほしいんじゃ。服装は……青いはっぴにねじり鉢巻を巻いた角刈りの男じゃ。もちろんお金は払う……。どうか頼む……」
と、ゆっくり頭を下げる。
そこまで聞いて断るほど鬼じゃない。
「いいっすよ。この領都から出て行ったのは確かなんすね? まだ街のどこかにいるとかそういうことは」
「ない。私が見送ったからの……」
となると、襲われたのは道中、もしくは……。
とりあえず、レナント村に行ってみるとするか。
「その息子さんの名前と、レナント村での仕事を知りたいんすけど」
「名前はソン……。仕事は……工具の受け渡しじゃったか。レナント村には腕のいい鍛冶屋がおってのぅ。大工道具を新調するために取りに行くと」
「わかったっす」
となると、まずはレナント村の鍛冶屋のところに行くしかないか。
私は老婆の家を後にしようと家を出ると!家の前には四人が立っていた。
「どしたん? 家に入って」
「ん、依頼を受けたんだよ」
「へぇ。どういう?」
「いなくなった息子さんを探してほしい、ということだ。まず私は聞き込みのためにレナント村にいく。ついてくるか?」
「私いくー!」
「そう。私も先ほど似たような依頼を受けたんですよ。その関連性も知りたいですし、私は残ってちょっと調べてみます」
「僕はワグマに付き合うよ。ハーレーは?」
「俺は……ま、残る。ワグマとミナヅキじゃ戦闘となった時に困るだろ」
ということで、私とオイリでレナント村に行くことにした。
レナント村へ向けて、私たちは足をすすめる。
「でもワグマ来ないなんて不思議だねー。こういうの来そうなのに」
「……似たような依頼、か」
ワグマは似たような依頼を受けたといった。
つまり、その依頼も誰かが失踪しているということだ。それは偶然……と言うには早い。
もしかすると、何か起ころうとしているんじゃねえか?
「で、レナント村まで後何キロ?」
「そこまで遠くねえ。そうだな……。三時くらいには着くだろ」
「オッケー。のんびりいこー」
私たちはレナント村まで歩いて向かう。
午後三時。村の前についた。村の中では畑作業をしている人や、遊んでいる子どもがいる。
私は遊んでいる子供を呼び止めた。
「僕、ここら辺に有名な鍛冶屋がいるって聞いたんだが、場所わかるか?」
「レヴリーおじさんならあそこの家だよ! いつもキンキン煩いんだよなー」
「そう。ありがとう……。ああ、そうだ。ここ最近、青いはっぴを来た男の人とか見た?」
「いや……見てないよね?」
「みてなーい」
男の子から得られた情報はそれだけだった。
私たちはその鍛冶屋の家に向かう。コンコン、とノックするが、返答がなかった。
先ほどの子供が言っていたキンキンと鉄を打つ音も聞こえない。
「いないのか?」
「そこの旅の人、レヴリーさん、さっき森に入ってったよ?」
「あ、そうなんすか?」
「なんか薪を森の小屋から持ってくるとかで……。ここ最近、この周辺は怖いからやめたほうがいいと言ったんだけどねぇ」
怖い?
「怖いって?」
「うーん。夜、この村周辺で何かうろつく影があった……とか。その影に見つかると神隠しにあうとか。そういうことで夜はみんな出歩かせてないんだけど……。昼でも森の中じゃそんな神隠しがあるみたいでねぇ。この村の子供も数人やられてる」
森になにかあるな。
神隠しと失踪事件。絶対に関わりがある。この村周辺で何かがいる。
「うへー、怖いですねー」
「太陽が落ちたらこの村にいない方がいい。みんな怖がってるし、その神隠しは旅人でも容赦なく隠す」
そう言って、その女の人は去って行った。
「じゃー、日没までに戻ろっかー。時間もないし今から……」
「いや、残るぞ。その神隠しの正体、見てやろうじゃねえか」
神隠しには理由がある。