完全と不完全
世界は変わってしまった。
街では放火や殺人などが相次ぐようになり、王も、だれもかれもが混乱している。混沌とした世の中で法律が適用されなくなった。
すなわち、人の欲望の解放。もしかしてアンウンはこのための前座としての存在だったのかもしれない。
「とりあえず……一つ言えるのは、この街を歩くのは危険だってことだな」
「そうだねェ。人々の理性がなくなっている。この街で自衛手段を持っていないとすぐに殺されるだろう。私はやむを得ない場合は人を殺す手段をとるよ」
「それは私もだ、が……。お前ら三人のいい子ちゃんはそういうの無理だろ」
「うぐっ……」
ゲームとはいえ、人を殺すのを戸惑う三人。
私やアルテミスは自分は善人でないことはすでに自覚している。
「人に殺されない方法はただ一つさ。殺される前に殺すしかあるまい。ここまできて善人ぶるのはやめたまえよ。心身共に悪い」
「世界が混沌に染まったら私たちも染まるべきだってことだ」
「なんか二人がすごい悪役に見える……」
「悪役? それはそうだろうねェ。私やゼーレ君は非常に性格が悪い!」
「私性格悪いってことになってんの? じゃあ殺すの嫌なんですけど」
「はっはっは! その程度で殺すのを嫌がることこそ性格が悪いといえるだろう!」
お前なぁ。
私は別に性格が悪いわけじゃないが。まっすぐ自分の気持ちにうそをつかないで生きているだけだが。
まぁ……。ガチな話だと、小さいころに大人というか、人間の嫌な部分ばかりを見てきたし、私がここまで歪んだのもある意味環境のせいだとは言い訳はできるだろう。
「まぁ、順応することだ。世界にね。もちろん、この世界を正す、という目的は忘れてはならないよ。世界が混沌に染まったままだと生活に危害が及ぶ」
「そうだな。まぁ、あのニャルラトホテプというやつをぶっ倒せば話は進むんだろうけどな……」
「ゼーレの攻撃を簡単に受け止めましたからね……。相当強いですよ」
「そのほうが燃えるわな」
強いほど喧嘩のしがいがあるってもんよ。
「……俺、しばらくログインしないかもしれない」
「僕も」
「なぜですか?」
「……その、さすがにNPCといえど殺すのは」
「気が引ける、かい。情けないね。まぁ、君たちはトップアイドルである以上、清い存在でいるべきか」
「……バカにしてんのかよ」
「馬鹿にはしてないさ。君たちの置かれている立場を端的に述べたまでだよ。君たちの神経を逆なでしてしまったら申し訳ない」
「……ほんっとに性格悪いなお前」
「よく言われるよ」
少し怒りをあらわにしているハーレーとミナヅキ。へらへら笑うアルテミス。
二人はアイドルである以上、ゲーム内でも人を殺すというのは避けたほうがいい。それこそ誰かに見られてでもしたら、そういうことする人なんだなと思われるのは必然だ。
「お前らはじゃあしばらくログインしないほうがいい。お前らはまだ完全でいたいんだろうからな。この世界のことは不完全な私たちに任せておけよ」
私は人間性が完成していない。それはアルテミスも同様だろう。
完成していないどころか、なにかしら欠如している。普通の感性ならば、ハーレーたちのような反応が普通のことだろう。
「天才というのはどこかしら、なにかしら欠如しているものだから不完全。いいたとえだね。ではゼーレ君も私も不完全ということか」
「そうだ」
「ま、ログインできるようになったらワグマ君が教えるだろう。私は元来こういう性格なんだ。相手の気持ちを考えるのは苦手でね。君たちを怒らせてしまったのなら謝るよ」
「いや……いい。言われてて、俺もそうだと思った」
「僕たちはすでに一度撮られているからね……。下手な行動をすればファンの印象を悪くしかねない、か。僕たちも短慮的だったよ。ごめんね。それじゃ」
と、二人はそれぞれの個室に戻っていったのだった。
あの、ラストスパートです。多分そろそろ終わります