ルール
まさかあそこで死ぬとは。きっと体が勝手に動いたという感じで刺されたんだろう。
そう思いつつ、ログインできない時間を過ごし終えて、再びログインした。ログインすると拠点の中にいて、私はとりあえずロビーのほうに移動する。
「あ、ゼーレ」
「おう。お前らも死にもどってきたのか?」
「ああ……。文字化けしてる看板があってその先でつまづいたら死んだ」
「そんなことより! 外見てみなよ!」
と、いうので、私は表に出ると。
空がピンク色に染まり、家が空中に浮いている。というか、この拠点も空中に浮いており、王城や一部の建物は地面に残ってはいるし、この建物に関してはくるっと反転している。
「んだこれ……」
「ログインしたらこうなってた。俺にもよくわかんねえ」
「この拠点に僕たちしかいないんだよ……。おかしいよね? ほかみんなログインしてんだよ? デイズさんとかラプラスさんとかモンキッキとか……。大体が活動的なメンバーなのは仕方ないけど、普段この拠点にいるアルテミスさんとかいないのはおかしいよね?」
「あー」
アルテミスたちは果たして戻ってこれたんだろうか。
私はとりあえず、ニャルラトホテプについて説明することにした。一応知っている情報は共有しておいたほうがいいしな。
私はニャルラトホテプについてと、多分この現象はそのニャルラトホテプが起こしていると告げる。
「ニャルラトホテプ……。そいつを倒さないといけないんだな」
「だけど、本の中にいるんだろ? どうやっていく? 王城には入れねえぞ」
「それなんだよな。とりあえず、ワグマ、アルテミス以外を……」
「あら、私たちは帰ってきてますよ」
「やっとログインできただけさ。私たちも結局死に戻った」
と、背後にアルテミスとワグマが立っていた。
「さっき、オイリたちから連絡が来ました。変なとこに飛ばされたと」
「変なとこ?」
「私たちのクランのメンバー全員が、それぞれ別の変な場所に飛ばされたようです」
そんなこと起きてんの?
「俺たち飛ばされてねえけど」
「きっとログインしていなかったからでしょう。ログインしていた人だけ飛ばされたみたいです」
それもきっとニャルラトホテプの仕業か?
混沌を呼ぶために……。
「死に戻りすれば戻ってこれるんですけどね。持ち物を半分ロストしてしまうということもおきますしなかなか死に戻りができないのでしょう」
「歩いて帰ってくるしかないってわけか……」
大変だな。
私たちは違う世界でニャルラトホテプという存在に出会ったから飛ばされなかったが……。
だがしかし、大事なのはメンバーのことじゃねえ。
「この世界をどうするかだ」
「見事にカオスだねェ。まぁ、この程度はあのニャルラトホテプには序の口だろう。気を付けていたほうがいい。この王都はじきに無法地帯と化す」
「なぜ言い切れるんだ?」
「秩序は法律ありきものだからさ。ルールがあるからこそ人が守られる。ルールは人を縛りもするが守りもするものさ。それがなくなったら? 誰もかれも守るもの、縛るものがなくなる。人を憎めば殺しても構わない、金がないなら盗んだって構わない。そんな世界を混沌というだろう」
「そうだな。ルールはやっぱ必要だ」
「でもそのニャルラトホテプに人々の意思をそうさせる力があるとは思えねえが」
「世界をこういう風に変えるんだ。人々の洗脳なんてまずたやすいだろう。だが……この世界の様子はもう少しで終わると見た」
その時だった。
私たちの拠点が地面に落ち、元の王都に戻っていく。
「さぁ、防衛したまえよ。自分の身は。ここから先の王都は混沌と化す! 面白くなってきたねェ」
「面白くねえよ……」
混沌はルールをなくす。