混沌より這い出し者
吸い込まれた先は、またしてもあの重力がわけわかんない大地。
だがしかし、今度は大地が一個しかなくて、その先にはなにかどこかに通じているのかもしらない黒い穴があった。
「ほほう? たしかにこの世界は混沌しているねェ。実に面白い」
「なんか来ます」
私は拳を構える。
黒い穴からカツカツと足跡を鳴らしてやってきたのは、シルクハットでステッキをもった男性だった。モノクルをつけ、胡散臭い笑顔を浮かべている。
「これはこれは。我が世界に何用でございますかな」
「お前がこの世界の主か?」
「そうでございますとも。ああ、自己紹介いたしましょう。私の名前はニャルラトホテプ。混沌より這い出ししがない神様でございます」
「……回りくどい話は嫌いだから単刀直入に聞かせてもらうが、なにか企んでいたりするのかい?」
と、素直にアルテミスが問いかける。
ニャルラトホテプはそれを聞いて笑う。
「企んでいるかといえばそういえますし、企んでいないかといえばそういえません」
「つまりはなにか企んでいるということか」
「ええ。皆様も、少しは考えたことありませんか?」
「何をだ」
「この秩序が激しい世界について。人を殺せば捕まる。盗めば怒られる。そんな世界、つまらなくないですか?」
ニャルラトホテプは手を大きく広げる。
「世界は秩序しかない。混沌がないとつまらないでしょう。世界は混沌に包まれるべきなのだと思いませんか」
「いや……」
「思えないのはあなたたちも秩序の徒だからです。一度、頭を柔らかくして考えてもみてください。なにか悪いことをしたら怒られる。そんな世界嫌でしょう? 混沌が世界を包んでしまえば、怒られることもなく、怒られても自分のままでいられる……。秩序だけの世界なんてディストピアでしかないんです」
何言ってるんだこいつ。
爽やかな笑顔でものすごく意気揚々と語り始めるニャルラトホテプ。アルテミスも、私たちも黙ってその演説を聞いていた。
「世界は混沌に包まれるべき。皆が笑っていけるように導いていくのがこの私の使命であり役目であるのですよ。あなたたちがそれを望んでいなくても、この世界の人間はみな混沌を望んでいる。望まれるべき混沌に、あと少しで世界が包まれる……。私の存在を知ったのが遅すぎましたね。もう、混沌は止まりませんよ」
と、言っていた。
私は思わず体が動いていた。
「なにするんですか?」
私の一撃が片手で簡単に止められていた。
「世界が混沌に包まれるってんなら、その元凶であるお前を倒せば終わるんじゃねえの?」
「なるほど! 正解です。私を倒せば混沌には包まれません。ですが……。神様を討とうだなんて百億年も早いですよ」
私は背後から何かに突き刺された。
私は振り返って顔を見ると、アルテミスがナイフを持ち私を突き刺している。
「テメェ……」
「すまない。私自身、何をしたのかわかっていない。体が勝手に……」
「ゼーレ、すいません!」
と、ワグマも横からナイフを突き刺してきたのだった。
私は瞬く間に体力がなくなり、そのままログアウトさせられたのだった。