ナイアルラトホテップ
私たちは王城の書庫にやってきた。
ワグマがフリューレル伯爵家に話を通し、王城に入る許可をもらってきてもらえた。私たちは王城の書庫で何か関係がありそうなものを適当に見繕う。
私はとりあえずアンウンについての情報が欲しい。なぜあそこは無法地帯なのかとかはどうでもいいが、なぜアンウンの住民が雲に覆われたことを怖がるのか。なぜ知っているのか。
「……あなた、あの無法地帯について調べてるんですか?」
「そうっすけど」
「あそこを調べる人いるんだ……。あそこはろくでもないとこだよ」
と、司書のお姉さんが言っていた。
「いや……ろくでもないのはわかってるんすけど……。それよりお姉さんアンウンについてなんか知ってるんすか?」
「知ってるけど……。あそこには近づいちゃだめだよ。特に、雲に覆われてるときには」
「……なんで雲に覆われてるときはって」
「雲に覆われている時、外にいると異世界へ連れ去られるという噂があるの。私のおじいちゃんも曇り空の時は私の首根っこを引っ張って中へ入れさせられたわ」
なるほど、その噂を信じて……。
「異世界ってどういう異世界で?」
「わからない。けれど、吸い込まれていった人たちは帰ってこなかったそうなの」
「帰ってこなかった……」
つまりあそこで死んでいるということか。ブラックホールに吸い込まれたか……それとも。
私はお姉さんにありがとうとだけいって、本を開く。
「おお、ビンゴのようだ。やはり私は正しい」
「正しい?」
「これを見たまえ」
と、本を見せてきた。
そこには文章だけが乗っている。内容には「重力も何もかもがカオスな空間を作り出している神。何を考えているのかわからずだれも読めない神」
と。
「名前が文字化けしてる……」
『繝九Ε繝ォ繝ゥ繝医?繝??』と書かれていた。
あの立て看板と同じ。ということはこの神様が原因であの空間が生まれたのだろうか。
「文字化けを復元すると……。そうだねぇ。有名な神様になる」
「復元できんの?」
「まぁ……。復元はツールがないと不可能さ。ただ……カオスという言葉で想像はできる。この神様の名前はナイアルラトホテップさ」
「ないあるらと……誰それ」
「誰ですかそれ」
「君たちが聞いたことがある名前にするならば……ニャルラトホテプという神様さ」
ニャルラトホテプ。それは聞いたことがある。
クトゥルフ神話に登場する魔王アザトースに使える神様だったか?
その時だった。
アルテミスが持っていた本が突如として蠢きだす。アルテミスは本を手放してみるが、その時は突然訪れた。
本が私たちのほうを向くと。
「す、吸い込まれる……!」
「またこの展開かよ!」
「いやはや、もしかして神様の名前を当ててしまったのが災いしたのだろうね。文字化けした神様の名前を当てることがこのイベントのキーとなっているのだろう。ニャルラトホテプ。ふむ、多分その神様は……」
「神様は?」
アルテミスは何か言いたげな目をしていた。
吸い込む力が強くなる。司書さんは何が起きているのかわかってないようでひたすらカウンターにつかまっているようだった。
「最初に言っておこうか。ニャルラトホテプ。その神様は多分……」
「多分?」
「このゲームのラスボスだ」
……まじで?
そう言い切って、アルテミスともども、私たちは本の中に吸い込まれていったのだった。