また死にかけた
オイリに負けた翌日、私は滝行を受けていた。
自分への戒めも込めて、滝に打たれること10分。なんとなく精神が統一できた気がする。ただ、目にちょっと水が入って痛いけれど。
「あー、クソ、クソが……」
「気が済みましたか」
「気が済んだよ、畜生……。さっぶ」
夏だというのに。
「もう修学旅行も間近なんですから。風邪、ひかないでくださいね」
「わあってるよ」
私は月能からタオルを受け取り、体をふく。
少しは冷静になれた。うん、もう立ち直れた。負けたのはしょうがない。次に進まなくてはいけない。
私は自分の頬にビンタをかまし気合を入れる。
「さて、腹減ったな」
「もう昼時ですもんね。この時間、ファミレス行こうにも混んでそうです」
「なら近くにいいお店がありますよ」
と、滝行をさせてくれた寺の坊さんが話しかけてきた。
「東屋という蕎麦屋があるんです。そこの蕎麦はおいしいですよ」
「蕎麦、いいな。月能、大丈夫だったら行こうぜ」
「あー、いいですね。最近蕎麦食べてませんし、行きましょう。奢りますよ」
「おっけー」
私は東屋に移動し、蕎麦を注文。
ざるそばが届き、私はネギをつゆの中に入れて、一口食べる。やっぱうまいなと思い啜っていると、少し頭がくらくらしてきた。
それに、呼吸が……。私は思わず首元を抑える。
「どうしたんですか!?」
「ちょ、くるし……」
「まさか……でも、ええ!? とりあえず救急車!」
私は意識を投げだしたのだった。
気が付くと、病院にいた。
桃と衣織、月能と茂治さんが座っていた。
「目が覚めたか!」
茂治さんが私の肩をつかんで確認してくる。
私はなぜここにと思って、思い出してみると、蕎麦屋で倒れたんだったか。
「重度の蕎麦アレルギーみたいですよ」
「……マジ?」
「はい」
蕎麦アレルギー……だと。
「私、ガキの頃は蕎麦食べられてたぞ?」
「大人になって発症するというパターンもあるそうだ」
どうやら私は大人になって蕎麦アレルギーが出たらしく、重度の蕎麦アレルギーのせいで呼吸困難に陥り倒れて運ばれたのだという。
まぁ、なんつーか。
「今年何回死にかけるんだ?」
「もうこれ本格的に呪いかなんかじゃないんですか?」
「退院したら一回お祓い行こう」
「えっと、車に轢かれて、拳銃で目を撃たれて、蕎麦アレルギーで倒れてで三回目だね」
「殺意マシマシすぎますね……」
「こればかりはまあ仕方ないにせよ……。一応アレルゲンを調べておいたほうがよさそうだ」
蕎麦アレルギー……。蕎麦好きなんだけどな。
「ねぇ、花音ちゃん。なんか恨まれることしてるんですか?」
「昔、喧嘩ばっかしてたからそん時は恨みばっか買ってたけど……」
「今更それの呪いが?! マジでお祓いいこ、ね!? てか修学旅行大丈夫なの!? 退院できる!?」
「父によれば修学旅行前日に退院予定らしいです。旅行先でも蕎麦は気を付けてくださいね」
「気をつけなきゃ死ぬからな。気を付ける」
今年、何度死にかければ気が済むんだろう。
二度あることは三度あるというが、こういうの複数回あってほしくないだろ。