オイリは優柔不断
家に帰り、ヘッドギアにソフトを入れて電源を付ける。
そして、ヘッドギアを頭に装着し、パソコンを開く。パソコンでまずアバターを設定するらしい。
私自身のモデルは既に読み込ませているので、あとは顔を少し弄ったりするということだ。
まあ、私のプロポーションはそこまで悪くないので特にいじらなくてもいいと思う。
名前を決めるランクがあった。
ドイツ語で魂という意味のゼーレと名づける。理由はカッコいいから。
あとは種族。
もちろん、私の得意な闘いは拳での戦い。拳で戦うことが主軸となるのなら、パワー系のステータスが伸びやすい種族がいい。それにヒットしたのは竜人種。
力こそ正義であり、パワーでゴリ押せば大抵は何とかなるはずだ。
「っし、これでアバター設定は大体いいだろ。あとはログインするのみ……。トイレとか先に済ませておくか」
私は階段を降りトイレを開けて用を足す。
そして、部屋に戻りログイン。私の目の前の光景が一気に変わり、街の中に変わっていく。
行き交う人々、装備が整っているプレイヤーたち。発売から数日経っているだけあり、少し進んでいるプレイヤーも多そうだ。
「っし、ゲームにログインできたんだ。やれることやってみっか!」
私はとりあえず戦ってみたい。
モンスターは基本的に街の外で出るという。街の外に向かうと、早速手頃な魔物がいた。
私は背後から飛びかかり、ぶん殴る。
「やっぱ最序盤だからステータスも低いし一発は無理かよ。ま、想定通りだぜ」
犬型の魔物は私に噛みつきかかってくる。
私は躱すことは考えず、ただただぶん殴る。ダメージ喰らいながらもなんとか討伐できた。
ただ、五発くらい撃ち込まないと倒せない。ステータスの低さは序盤だから仕方ねえ。
レベル上げでもしようか。
そう考えていると、カノちーんと気の抜けた声がする。声の方を振り向くと衣織と月能がいた。
「もう戦ってる!」
「相変わらず喧嘩好きですねぇ。江戸っ子ですか」
「喧嘩と祭りは江戸の華ってね。ま、江戸っ子ではねえけどな。で、遅かったな」
「カノちんが早すぎんの! 少し待っててよ!」
「ワガママだな……」
「それより、リアルネームはダメですよ。オイリ」
「オイリ? プレイヤーネームか。衣織って名前の順番変えただけだろ」
「いいじゃん……。名付け得意じゃないんだよ……」
たしかに。衣織は猫を飼っているらしいが、名付けだけはさせてもらえないと愚痴っていた。
どうもネーミングセンスがないらしい。猫につけようとしていたのは「餓狼丸」という名前。頭狂ってんのかと思ったわ。
「私はワグマです。月能なのでワグマ」
「ツキノワグマか」
「はい。ヒグマでもよかったんですけどね」
熊の種類ならなんでも良さそうだ。
「それでカノちんはー?」
「私はゼーレ。ドイツ語で魂という意味だ」
「ゼーレ! かっくいい!」
「だろ? それより、揃ったんなら色々やることやろうや。職業とかいろいろあんだろ」
「そうですね。まあ、なりたい職業は決まってますから。色々決めてないのは……まあ、多分オイリだけですね」
「…………」
「オイリは優柔不断だからな」
「…………」
ネーミングセンス皆無で、優柔不断。だけどやりたいことはやるやつ。
「とりあえず職業決めようぜオイリ。職業補正もあるし無職のままじゃダメだろ」
「透明のままじゃダメですよ」
「うーん……」
オイリは職業を決められない。