負けた悔しさ
負けた。
完膚なきまでとは言わないが、負けた。
「ああー……」
「ふふ、私たちの勝ちですね」
「……ああ」
私は空を見上げた。
負けた。喧嘩で、初めて負けた。それほどまでに強くなったのを喜ぶべきか、それとも私が負けたという事実を嘆くべきかよくわからない。
ただ、ものすごく悔しい。
「勝ったあああああ! やったああああああ!」
「ゼーレが負けるとか予想できなかったよ」
「強くなったんだな……っていうべきなのか?」
「そうっすね。一応、ゼーレさん、スキル一個も使ってないっすよ?」
「うぐっ」
そういえばスキル使ってなかったな。
肉体戦が楽しかったのか使うのを忘れていた。
「むうう、たしかにスキル使われてないし、本気でもないゼーレに勝ったところで……」
「本当の勝ちとは呼べないかもしれませんね。ですが、勝ったのは真実です」
「そうだな」
悔しい。
私もまだまだということだ。私こそ、修行すべきだったかもしれない。
「でも……ゼーレがものすごい不利だったじゃん。これで勝ったってやっぱ不公平だよなぁって思うなぁ」
「俺たちと戦った直後だからな」
「それでもなおぎりぎりまで持ち込めるって相当やばいと思うけど……。むしろ、僕たちなんかダメージ与えられてないからね」
「それもそうだ」
「ハンデとか、消耗とかどうでもいいんだよ今は」
クソ、悔しい。
初めて負けた。勝ちたかった。勝負を急ぎすぎたからこそ、負けたんだと思う。敗因はきちんと理解している。驕っていた。私はだれよりも強いと。だからこそ、心の底ではオイリをなめてかかっていた節があるのかもしれない。
鍛えなおすか。
「ゼーレ、すごい悔しそう……」
「負けを経験したことがないのでしょう。ゼーレは勝負には常に勝ってきましたから」
「今話しかけないほうがよさそぉ……」
「ししょー、お疲れさまでした!」
「……ああ、ありがとう」
クソ、驕り高ぶっていた自分に腹立つ。
オイリだって十分強いと理解していたはずなのに。それでも、どこかしらで見下していたんだろうか。
そんな自分に少し腹が立つ。負けて理解した。私の傲慢さを。
「ああ……情けねえ」
「情けないって……」
「最強って自分でも謳ってんのに、負けるとかだっせえ……」
「いや、十分なハンデありましたし、スキル使用してなかったでしょう。多分、ハンデ一切なかったらゼーレが勝ってますよ? さすがに一週間程度でゼーレに追いつくことは不可能です」
「そうそう。私たちはゼーレに関してはよく知ってたし、対策は簡単だったからね! まぁ? また挑んできたまえ」
「……言ったな、オイリ」
私はオイリの肩をつかむ。
「んじゃ、リベンジマッチだ。今度はスキル使用アリにさせてもらうぜ」
「え、い、今?」
「八つ当たりもかねて。受けてくれるだろ? 王者様」
「え、あ、今は……」
「お前の返答はイエスかはいしか聞かねえ」
「……ふぁい」
もう一度、戦うことにした。
今度はスキル使える。私は鬼神スキルなどを使って、攻撃を仕掛けると、すぐに自慢の防御を貫き、二発でオイリが沈んだのだった。
「ふぅ、ちょっとすっきり」
「こんなに早くリベンジできることってあるかな……」
「さすがにかわいそうですね。どちらも」
「ふん。スキルアリならやっぱまだ私だな」
最強は譲らない。
まぁ、オイリはワグマもいましたし、二対一なのでハンデ、ものすごいですからね。