過去のことは
昨日は帰ってきてゲームにログインする余裕もなく、土曜日を迎える。
土曜日もパーティの準備のために忙しなく、パーティが開かれるまでは私たちはあちこちに奔走していた。
そして、パーティがやってくる。
似合わないドレスではなく、私専用の燕尾服を着て会場に出向いた。
「はぁ……。いざ発表ってなるとプレッシャーすげえな。阿久津家継ぐってこんなプレッシャーかかんのかよ」
「そうですよ。私はそのプレッシャーをたくさん、受けてきましたから」
「大変、なんだな」
月能は昔から後継ぎとして見られてきたからな……。
私は姿勢を正し、服装を整えると、名前が呼ばれる。私は壇上に上がると、茂治さんが私を後継ぎとして認める……と言いかけたときだった。
「ちょっと待ってください」
と、声を上げたのは東山。
東山は無断で壇上に上がってきて、私からマイクを奪う。そして、ニヤリと笑っていた。
「皆さま、聞いてください。この花音という女性は、人に暴力を振るうのです」
と、突然会場が暗転し、私の後ろにプロジェクターで映像が映された。
それは私が目を失った時の喧嘩……。なぜその時の喧嘩が映像に残されているのか。あれは私と桃ぐらいしか知らないはずでは?
桃……桃がもしかして。
「嘘……」
「あーあー」
と、私の喧嘩映像を見て、口をおさえて驚いている人や、黙って見ている人。さまざまな反応があった。
やっぱ、この問題はあるよな。私はもともと素行不良の不良だったのだ。こういう過去は消せない。そもそも、喧嘩自体、阿久津家の血筋が入ってるって知る前からやっているのだ。
「こんな人間が阿久津家に相応しいと思いますか?」
東山はそう問いかけるが、会場の反応はない。
してやったり、というような顔をしている東山。だがしかし、茂治さんは何も言わない。
自分で、どうにかしろってことかよ。やっぱ厳しいかもしれねえな。
「この映像、作り物じゃないですよ。この後、目に傷を負います。それがこの傷です」
「…………」
「私はこんな女性、後継ぎには相応しくない、と、抗議させていただきます」
私にマイクを押し付ける東山。
どう弁明したものか。もうこれは誤魔化せないだろう。誤魔化せない、素直に言うしかないか。
自分のことを語るのはそこまで好きじゃないのだが。
「私は……まぁ、喧嘩に明け暮れてた不良、だったんす」
私は喧嘩し始めた原因などを話す。
こうして、自分のことを話していくと、感じていく。私のアブノーマルさ。
私はやっぱ普通じゃない。だからこそ、本来は……。
「本来は、後継ぎは月能の方が相応しいのだと私は思います。月能のほうが教養も、礼儀もあります。ですが、私は月能の夢を知りました。月能には好きなことをしてほしい。月能に私は救われたので……月能には好きなことをしてほしい。そう思い、後継ぎの話を受けました」
私は、やっぱり本来は相応しくないんだろうな。
「相応しい、相応しくないというわけではなく、私自身、月能を応援するために後継ぎになる決意をしました。まだ、自覚はないです。正直……。こんな私が後継ぎになるのは反対だという人もいるかもしれません。けど……お願いします。認めてください。月能のためでもあるんです」
私は頭を下げた。
「ということだ。彼女の口からきちんと全てを語った。これでも私は後継ぎとして認めている。どうか、よろしく頼むよ」
茂治さんも頭を下げる。
「最後に……。東山家。東山家は花音が話すキッカケを作っていただいた。ありがとう」
「……まぁ、嫌われ役は慣れてますから」
と、話が終わる。
私は顔を上げると、まばらながらも拍手が巻き起こる。パチパチと拍手が。
「さ、花音。パーティを楽しむといい。東山家の子とゆっくり話すのだ」
「……っす」
どういうことだ。