アイドル×不良
ついに来た領都。
領都につくと、準備に入るとワグマはログアウトして、私とオイリだけがゲームの中に取り残されたのだった。
とりあえず、倒した敵の素材を売り払おうと冒険者ギルドに向かおうとすると。
「へぇ、ここが領都か。意外とにぎわってんじゃん。夜だっつうのによぅ」
隣でも男性二人のプレイヤーが街の様子をそう述べた。
たしかに、夜とは思えないくらい人通りがある。何やらすこし騒がしい気がしなくもない。
「ん? ああ、どうも、お嬢さんがた」
「ん。ども」
二人は私たちの視線に気づいたのか、挨拶をしてきた。
顔はものすごく整っている。オイリはなにか考えるように見ていると。
「あ、思い出した! すがちんとぽんちん!」
「あれ? 衣織?」
片方のけだるそうに頭を掻く男性が衣織の名前を呼ぶ。
「知り合いかよこのイケメン」
「うん。中学時代の同級生で、アイドルやってる人。知ってるでしょ? Sky Rimっていうグループ。その二人だよ」
「名前しか知らねーよ……。私そういうアイドルとか興味ねーし」
「ふふっ、僕たちを知らない子と会うのは初めてだね。改めまして。すがちんこと菅原 純也です。プレイヤーネームはミナヅキ。よろしくね」
「俺はぽんちんってこいつは言ってるがそこまで気に入ってねえ。本田 唯臣だ。プレイヤーネームはハーレー。ま、よろしく頼むぜ」
少しばかりけだるそうなハーレーと、明るいミナヅキ。
「私はこいつの友達でプレイヤーネームはゼーレ」
「私はオイリって名前でやってるんだー。よろしくぅ!」
「ったく、元気でちょっとうぜえのは変わんねえのな……」
「そういえばオイリ、阿久津さんはどうしたんだい?」
「ワグマはねー、来週、私たちと一緒に北海道行くからその準備でログアウトしたんだー」
「ふーん……」
興味なさげに頭を掻くハーレー。
こいつすげードライなやつだな。まぁ、別にそれはいいんだけど。
「それにしても二人ゲームやってるんだねー。人気アイドルなんだから身バレしたら囲まれるでしょ」
「まぁ、普段は隠してるからねー顔。今油断してたけど。でも、僕はそこまでやる気はなかったんだけど、ハーレーがやりたいっていうからさ。どういう風の吹き回しか知らないけど」
「このゲーム、あの蒼眼の死神もやってるっつーんだよ。その人を見たっていう証言が昨日あったからな。俺のあこがれのやつだし、一度会って話してみてえ」
……私?
「もー、ぽんちんすでに会ってんじゃん! 蒼眼の死神にー」
「はぁ?」
「蒼眼の死神ってのはゼーレのことだよ?」
と、オイリが漏らす。
「おい」
「お前が……? 蒼眼の死神っつーから男性だと思ってたけどよ……」
「……そうだよ。文句あるか?」
「いや、ねえ。けど、信じがたいのも事実だ。手合わせしてくれよ。俺も不良上がりだからよ。割と喧嘩の腕はあるぜ」
「ん。PKしない程度には手加減してやる」
私は拳を構える。
素手喧嘩のほうがいいだろう。わざわざ竜変化を使う必要もない。私は拳を構えると、ハーレーは。
「女だからって容赦しねえぜ!」
「してもらうつもりもねえよ!」
拳を大きく振りかぶってくる。
私はそれを躱し、首筋をつかみ、そのまま地面にたたきつけた。
「そのキレーな顔、歪んでも知らねえぜ!」
「…………っ! くそっ、抜け出せねえ! 完璧に拘束しやがる……!」
「しまいだ」
私は思い切り拳を振り下ろし、直前で止めた。
「これでわかっただろ。ていうか蒼眼の死神っていうな。勝手につけられた二つ名は恥ずかしいんだよ。中二か」
「……あぁ。納得したぜ。すげえわ、やっぱ」
「そんな憧れるもんじゃねえだろ。アイドルと喧嘩なんて似合わねえし」
「そうだな。会いたかったのは憧れもあるが、その憧れを捨てるためでもある。ありがとよ」
「気にすんな」
私はハーレーに手を差し伸べる。ハーレーは私の手を取る。
「なんか……不良二人の更生譚みたいだね……」
「ぽんちん、昔から悪ぶってたからなー」
「うるせえ。ま、満足した。なぁ、蒼眼の死神……じゃねえ、ゼーレさんよ」
「なんだ?」
「俺らと一緒にクラン作らねえか。俺はまだあんたと一緒にいてえ。強さを学びてえ」
「……すでにクランは作ったけど」
「んだと? どこに入ったんだ」
「いや、私とオイリとワグマの三人で作ったクライノートっていうクラン。入る?」
「ん、入る」
と、二つ返事で入ることになった。クラン入団申請欄にハーレーの名前が追加される。ただ、この入団を受注できるのはリーダー、サブリーダーだけ。
つまり、オイリに決定権がある。
「オイリ、申請許可してやれ」
「わかったー。ミナヅキは?」
「入るよ。ハーレーのやつ、俺が一緒にいないと駄目だもん」
「俺は一人でもいんだよ。てか、お前は無理してはいらなくてもいいんだぜ」
「無理……はしてないよ。僕もやる以上どこかしらには入るか、作るつもりではあったから」
ということでミナヅキの名前も追加された。
「よろしくな」
「よろしく」
「ああ」
二人と握手を交わす。
「さ、僕たちも仲間になったってことでさ、明日リアルで会おうよ。久しぶりに」
「ワグマも誘って?」
「うん。このことを知らないのは阿久津だけだしね。オイリたちもどうせ東京にいるんでしょ?」
「どうせって……」
「オイリは基本東京から出ないからね。それぐらいは理解してるんだよ、これでも。そうだな……。ちょっと定番だけど渋谷のハチ公のところでどうだい? 明日は僕たちも学校も仕事も完全にオフだから空いてるんだ」
「いいよ。時間は?」
「10時」
「わかった」
明日10時、ハチ公前。