田中家からの帰り
私が翠さんと話していると、ノックの音が聞こえ、田中が入ってくる。
「どうしたんだよ」
「いや、今さっき学校から連絡あってさ」
「連絡?」
「修学旅行、行き先変わるんだってよ」
と、連絡が来た。
「……まじで?」
「ああ。予定していた日にち、予報だと大きな台風にぶつかるらしいんだわ。流石にそれで行ける訳もなく、かといって本州だと流石に周りも飽きているだろうってことで、北海道に行くらしい」
北海道……。行くのは二回目だな。
急な行き先変更……。修学旅行は来月の1日からだしな。
「それで、どこ地方がいいか、紙に書いてきてくれ、だと」
「どこ地方、ねぇ」
「宗谷、旭川、オホーツク、小樽、札幌、十勝、室蘭、根室、函館とかいろいろ行くところあるな! 北海道は広いから観光名所がたくさんあるぜ! 私としては乳牛とか馬とか今一度見てみたい気持ちがあるな!」
「姉ちゃんが行くわけないんだから……。で、どこ行きたい?」
「馬乗りたいから十勝方面」
「じゃ、俺も十勝にしよ」
十勝と言えば大きな農業高校があるよな。
そこは帯広だったか?この前日本一大きな農業高校ということで紹介されていたし、農業高校の生活を描いたドラマが放映された。行くならブームとなってる今だろう。
「馬乗れるかぁ?」
「どうだろ。小さい頃、親に連れられたショッピング施設で乗馬体験コーナーがあってそれで乗ったけど……乗れるかどうか」
「あー、ならうちの出番だろ。乗ってみるか?」
「乗れ……?」
私は茂治さんに電話してみる。
「もしもし」
『なんだ?』
「明後日の日曜、どこかで乗馬体験出来ないっすか。友達と乗ってみたいんすけど」
『ああ、なら牧場に手配しておこう』
「あ、いいんすか! あざっす」
と、電話が切られた。
「日曜、迎えにくるわ」
「……え、そんなに気軽に体験出来るもんなの?」
「市ノ瀬さんにそんな伝手あった……って、もしかして阿久津家……?」
「そ」
「月能さんの父なら納得……」
「阿久津……? あんたそんなすごいやつと知り合い!?」
「あ、えっと、市ノ瀬さんと阿久津家のご令嬢とで仲良いんだ」
「……不良なのにバックにすごい奴いるとか敵わねー」
日曜か。
明日の土曜日。茂治さんが後継者の発表パーティを開くというからまずはそれを乗り越えて、だな。
私が後継者っていう自覚は今ほとんどないけど……。
「あ、そろそろ私帰るっす」
「おう」
「おうじゃないだろ。女心を少しは理解しやがれ。見送ってやれよコンビニまで」
と、後頭部をガツンと殴られていた。
「ってわけで送ってく」
「あ、ああ」
尻に敷かれてんなぁ。
私は靴を履き、外に出る。まだ日は明るいが、もう6時近くだ。
「わりいな、うちの姉ちゃんが」
「気にすんな。それより田中。お前結婚には気をつけろよ」
「は?」
「尻に敷かれるタイプみたいだからな」
「余計なお世話だい」
コンビニが見えてきた。
「……あの、さ」
「あ?」
「その、俺」
と、何かを話そうとしていたとき、横に高級車が停まる。中には執事さんと月能が乗っていた。
「やっと帰ってきたんですね」
「あ、おお」
「さ、帰りますよ」
「わかった。なんか話したいことあんなら学校でな。待たせちゃアレだし」
「あ、ああ……。また学校で」
と、田中に手を振る。
それにしても、何を言いかけてたんだ。アレはまるで……。いや、気のせいだな。
私にそんなことが訪れるはずがない。