暴走族の姉ちゃん
天貫山の雪解け水を渡すのは翌日ということになり、私はログアウトして就寝。
翌日、帰ってログインしようとしたら田中に呼び止められたのだった。
「あの、俺の姉ちゃんがお前に会いたいって言ってんだけどさ」
「…………」
「悪いけど、俺んちきてくんない?」
というので、仕方なく私は田中の家に行くことになった。
月能たちは男の家に行くの大丈夫か?とかは聞いてきたが私は男に組み伏せられるほど弱くはないつもり。
家の中に入ると、ランニングシャツ姿でシャワー浴びたであろう金髪の女性が廊下を歩いていた。
「ただいま、姉ちゃん」
「おうおかえりー。って、そっちは?」
「あ、市ノ瀬 花音っす」
「姉ちゃん、昨日話してた……」
「蒼眼の死神!? まじで!? こんな可愛い子が?」
「あー、そうっす」
「へぇ! 花音ちゃん、私の部屋に来なよ!」
と、言うので私はその女の部屋に上がらせてもらう。
部屋の中には写真が飾られてあり、暴走族のような見た目の女の写真が飾ってある。どことなく目の前の女の人に似ている。
「改めて、私は田中 翠。これ、私」
と、写真を見せてきた。
胸にサラシを巻き、バイクに跨っているグラサンの女。暴走族かよ田中の姉ちゃん。
「いやぁ、すげえ喧嘩が強い女の子がいるって昔から有名でさー。蒼眼の死神に一度会ってみたかったんだよね。うん、たしかに強者のオーラを感じる」
「ど、ども?」
「その目の傷は喧嘩で?」
「まぁ、そんなとこっす」
「数年前まで怪我すらしない傷ひとつつけられないと聞いていたけど……。悪いけど、弱くなった?」
「いや、流石に不意打ちで拳銃ぶっ放されたら避けられないっすよ」
私がそう言うと驚いた顔をしていた。
「銃で撃たれたの!? サツ?」
「いや、不良っす。警察から拳銃を奪ってきてたみたいで。ヤクザとか絶対持ってるってやつは対応できるんすけどね」
「まず目のあたり撃たれておいて生きてるのもおかしいし対応できるのもおかしい……。さすが死神」
「死神っていう名前そこまで好きじゃないんでやめてもらっていいっすか」
蒼眼の死神ってのものすごい恥ずかしい。
翠さんは自分の部屋にある小さな冷蔵庫からサイダーを取り出し手渡してきた。私はサイダーを飲む。
「で、喧嘩してきて強かったのとかいる?」
「……ヤクザっすね」
「たしかヤクザの事務所に単独で突撃して潰してきたっていう噂あるね。本当なんだ……」
「昔のことっすよ」
「事実なのが恐ろしい……」
そこまで畏怖しなくても。
「うちの暴走族は狙わないでくれ。な?」
「私の友達とかに手を出したら狙いますけど」
「狙わない! この辺りの高校生には迷惑かけねえから!」
「そっすか。ならいいんすけど……」
私は部屋を見渡してみる。
壁には木刀が立てかけられていた。私は木刀を手に取ってみる。手に馴染みやすいように持ち手が削られており、少し血がついている。やってんなぁ。
「すげえ、振り回しやすい」
「部屋の中で振り回すなぁ!」
「あ、すんません。でもこれ喧嘩にいいっすね」
「その感想出る時点で恐ろしい……」
あ、ナチュラルに喧嘩脳になってた。いかんいかん。
「サラシか……。サラシって巻いてみていいっすか?」
「お、おう! いいぞいいぞ! ならまず上全部脱いでよ……」
サラシってどんな感じなのか体験してみたい。
私は上半分裸になり、翠さんが包帯をぐるぐる巻きにする。すると。
「姉ちゃん、母さんが……うおっ!」
「何見てんだテメェ!」
と、翠さんが強烈な右ストレート。田中が持っていたケーキが床に落ちる。
ラッキースケベの代償がでけえ。
「マジのパンチはねぇだろ……。ノックしなかった俺も悪かったけど……!」
「いいからはよでんかい!」
「抗議くらい……」
「早く出ていかねえともう一発食らわせんぞ」
「でていきやす……」
と、床を這いずって出ていった。不憫だ。
「悪いな」
「別にいいんすけど。裸見られんのは気にしてないし」
「ダメだ。女の子がそう簡単におっぱいを見せちゃいかんよ」
「女の子ってそういうもんなんすかね」
「そういうもんだ」
そうなのか。うーむ。価値観がわからん。