不良少女をやめるキッカケ
翌日、学校で進路希望調査票を出した。
阿久津家を継ぐ。未来が決まるとなんだか引き締まる気がするな。
色々と問題はありそうだけど……。まぁ、そこは追々か。
「それにしても……もう3年生だって考えさせられるね」
「そうだな。進路、か。月能はやりたいこと知ってるけどお前ら3人は何がしたいとかあんのかよ」
「私はオモチャ屋! オモチャ好きなんです!! ゲーセンでも可!」
日向はオモチャ屋になりたいらしい。
「私は……まぁ、実家を継いで医者かパティシエ……。パティシエかなあ。父さんのように頭良くないし」
「私はお嫁さん!!」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」
私は衣織を軽く叩く。
「まぁ、それは冗談だよ? 私としては第一志望は俳優かな」
「だろうな」
「なんとなく今日子もそんな気がしてたのです」
「だよね」
「意外性はないよね! でも、やっぱ両親が俳優だと憧れるよ? スターの子供はスターって。でもま、現実はそう甘くないだろうけどね〜」
衣織は悲しそうにそう言っていた。
「衣織の口から現実って言葉を聞くとは……」
「私だってそういうこと考えるもん。でも、現実問題として、売れなかった時は悲惨だよ。すぐ諦めるならまだしも、30、40とかになってダラダラとやり続けてたら」
「どういうことですか?」
「20の時とかはまだ若いしやり直しも効くじゃん。辞めて他の仕事とかさ。でも、30とかになってくると雇ってくれるとこも少ないし、本人も変なプライドが出るんだって。俺はまだ埋もれてるだけなんだとか、周りが評価しないから人気でないだけだとか。大人なんてプライドの塊だって母さんたち言ってた」
えらく現実的な話だことで。
たしかに理解できる。年数を生きていくほど、経験したと思い込むようになる。
だからこそやれ若造だやれ老害だのとのたまう。
「プライドねぇ」
「花音ちゃんとかはプライド高いですよね」
「まぁな。私は喧嘩っ早いし強いという自信があるからな。これが私のプライド。まぁ、否定されても実力でぶちのめすわけだが」
「花音は強いですからね。プライドを持てる強さも兼ね備えてますから」
「ふふふ」
まぁ、馬鹿にされても私だけがわかってりゃいいしな。
「私もきっとそうなってくの怖いんだよねぇ。親の七光りで人気得たくないっていう気持ちもあるし」
「まぁ、親の七光りはいい気しねえわな」
「でしょ? だからまぁ、思い悩んでるわけで。やりたいことをやるか、現実的に行くか」
「まぁ、一番は現実的なのがいいんでしょうけど」
「最初はやりたいことをやった方がいいだろ」
やりたいことを最初にやる。挫折したら違うとこに行く。そう言った方が気持ち的には良さそうだ。
私たちの後押しで衣織はそうすることに決めたらしい。
すると、チャイムが鳴る。
「あ、昼休み終わっちゃった。私たちもーどろ!」
「そうですね。次はなんだっけ」
「次は古文だったはずです!」
と、話しながら出ていった。
「私たちもそろそろいくか」
「そうですね」
私たちは体育。
今日は外でマラソンをするらしい。太陽がでているからということ。
マラソン好きだな萩野。
「まぁ、流石に私は全力出せねえな。左側わかりづれえし」
「花音は不参加でもいいと言ってませんでした?」
「参加する。オリンピックの父も言ってたろ。参加することに意義がある、と」
「身体動かしたいだけですよね」
「それもある」
私は校門前に移動した。
眼帯をつけ、私は少しウキウキで待っていると。
「きゃっ!」
「どうしたの?」
「なんか校門の方から飛んできて……BB弾……?」
「いたっ」
「なんだ?」
と、後ろを振り返ると学ランを着崩したどこかの高校生がエアガン片手に動画を撮っているようだった。
もう一発女子めがけて放ってきたので手で受け止める。
「みんな、一時校内に避難を!」
「……っし、身体、ちょっとあっためてくっか」
「花音?」
「先生、私、捕らえてきますよ」
「…‥頼めるか?」
「少し手荒になりますがね。流石に邪魔されちゃ私も嫌ですから」
私はエアガンを持っている男たちに近づいた。
この高校は隣街の不良高校の生徒だな。
「テメェ、人様の学校に面白半分で喧嘩売ってんじゃねぇぞ」
「な、なんだてめえ!」
「動画広めんぞ? 暴力沙汰はやめといた方がいいぜ?」
「そっちから吹っかけてきたくせに」
「こんの……!」
と、BB弾を放ってくる。私は素手で受け止め、捨てる。
「まずこんなもんがあるからいけねえよな」
私はエアガンを持っている男の手を掴み、地面に叩きつける。
流石に後継となった今、この動画が流されるのは不味い。私はスマホを奪い、データを削除。
「わり、動画どころか全部のデータ消しちまったわ」
「なっ……!」
「とりあえずテメェら来いや」
「あ、兄貴、コイツもしかして……」
「あ?」
「蒼眼の死神、では……?」
「はぁ? なんでんなバケモンがこんな進学校にいんだよ!? と、とりあえず逃げ」
「させねえよ」
私は全員の首根っこを掴み、連行していった。
先生の元に連れていかれ、私も一緒にいるようにと。こいつらは借りてきた猫のように大人しくなる。
私に逆らうのはダメだと理解している。
彼らは結局、注意だけで済むことになり、今後はやめるようにと言われ、私も釘を刺しておいた。
「いやぁ、不良どもにはお前の名が効くなぁ! さすが蒼眼の死神。喧嘩売るなんて馬鹿ぐらいしかいねえよな」
「……ナチュラルに私捕らえに行ってましたけどそういえば先生、普通止めるべきですよね?」
「まぁ、先生的にはそうだな。生徒を危険に晒すわけにはいかねえし」
「私も一応生徒なんすけど」
「お前の場合は危険もクソもほとんどないだろ」
いや、そういう問題じゃないでしょ。
私は校門前に戻ると、一人の女子が話しかけてきた。
「あ、あの、市ノ瀬さんすごいね……!」
「すごかった! まるで映画みてえ!」
「こ、怖い人だと思ってたけど……私たちのために……」
「ごべんねええええ!」
と、なんかクラスメイトからの評価が上がっていた。
「よかったですね。評価が上がって」
「あー……」
「不良少女から変わっていくチャンスですよ」
「私結構前に不良少女やめたつもりなんだけど」
まだ不良に見られてたの?お前らから。




