進路
この章はリアル回ちょっと多めになるかもしれません
イベントから数日が経ち、6月に入る。
私は休みの日、ゲームをしようとすると茂治さんが呼んでいるということを言われ、ヘッドギアを置いて茂治さんの書斎に向かう。
「大事な話のようですぞ」
「大事な話? 進路のことかな」
大事な話といえばそれぐらいだろう。
私はノックして入ると、月能も待っていたようだ。月能の隣に私が立ち、茂治さんになぜ呼んだのかを訊ねる。
「ふむ、進路のことだ」
「進路っすか」
「花音。君、やりたいこととかあるか? 将来の夢だとか、こういうことをやってみたい、とか」
「……ない、っすね」
将来の夢なんてものはなかった。
むしろ、抱くことができなかった。日々を生きることが精一杯で考える余裕もなかったしな。
「進路どうするかはまだ決めてないんです。さすがにコネはダメだと思うんで。まぁ……適当な職業について食っていきますよ」
「決めてないならよかった。大事な話だ。よく聞いてくれ」
「はい?」
「君が、後継ぎだ」
と、茂治さんの口から後継ぎだという言葉が。
「……またまたぁ。後継ぎはこいつでしょ? なんで私が後継ぎってことに?」
「月能のほうから辞退したのもあるが……。私自身、ひどいことを言うようだが月能より花音のほうが後継ぎとしては向いている」
「月能のほうから辞退した……?」
「そういうことです。まぁ、私も最初は後継ぎということを考えてはいましたが……。お父様の方からそう言われたんです」
「……嫌じゃねえの?」
「私は構いません。やりたいこともあるので……。嫌じゃないの、という問いはそっくりそのまま返しますよ」
「ああ。嫌か? 嫌ならば養子を迎えるかなんなりかして君を後継ぎから外す。君が好きに選ぶといい」
「選ぶって……。私は月能のように後継ぎ教育とかなんもされてないし! それに……私は力でしか従えることができないんすよ? 私の選択以前に、私は……」
「嫌かどうか聞いている」
私の気持ちを優先したいようだった。
嫌かどうか。わかんない。考えたこともなかった。私が阿久津家当主を継ぐ……?
そんなのいきなり言われてどうしろと。イベントの時に言っていたのはこのことか。
「……嫌では、ないかもしれない。けど、それはワグマのやりたいことを聞いてから決まると思うんですが」
「そうか。なら話してやれ」
「……私はゲームを作りたいんです」
「ゲーム?」
「はい。あなた方とやっているゲーム……。私はその技術力に惚れて。私もあのようなゲームを作ってみたい。その為には……阿久津家当主という肩書きが邪魔になるんです」
「……だから当主を私に譲ってそっちに行きたい、と」
「はい。ワガママですいません」
「いや、いい。月能は私のためにたくさんの事してくれてるしな」
私は覚悟を決めるしかないようだ。
「やります」
私は一発、頬を叩く。力一杯叩いたのでちょっと痛いが気合いは入った。
「わかった。だがしかし、マナーなんかは一通りできているからな。教えることはほとんどない」
「……そうなんすか?」
「阿久津家当主ったってそこまでやることはないぞ。肩書きだけがでかいだけだ。やることは普通の社長業だ。ま、私の会社は基本緩い。私も普段こちらで仕事しているくらいだからな」
「はぁ」
「社長業については私が教えられる。社交に関しては……月能。君も出るんだ」
「まぁ、そこまでワガママは言えませんね」
「快く受けてくれてありがとう。一応、後継ぎになると言う発表の場を設けなくてはならないからな。一週間後、パーティを開く」
「お父様。ドレスが出来てません」
ドレスなんて使ってないしな。
「それなんだが……。前回のパーティのとき、タキシード姿のほうがカッコいいという意見をたくさんのマダムからもらっていてな」
「……またタキシード、と」
「そういうことだ。すでに用意してある」
なんだ、ドレス着ねえのか。ならオッケー。私はあんな恥ずかしい格好苦手だしな。そもそもスカート自体そこまで好きじゃねえのにあんな豪華なの無理。
「私が後継ぎを引き受けるのはいいんすけど、出生が出生ですよ? その辺は……」
「まぁ、快く思わないものもいる。が、多分実力で黙らせられるだろう」
「そういうもんなんすかね」
「社交界も自分の持つ力が押し通る。阿久津家という力は並大抵のものじゃ負けないさ」
こ、こわ……。阿久津家こわ……。
「話はこれで終わりだ。まぁ、気長にまちたまえ。後継ぎになるのはまだまだ先。私が引退を宣言してからさ」
「はぁ……」
「私は限界まで引退はしない。君が社長になるのは何十年も先だと思ってくれていい」
なら、まだまだ余裕はあるか。
まだまだ懸念点はあるが……。そこら辺は多分茂治さんも分かっているだろうしなんとかしてくれるだろう。
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最近このテンプレ設定文入れてませんでしたね。