彼女の真骨頂
オタクにミナヅキたちを任せ、私たちは一気に砂漠エリアを突き抜けた。
砂漠エリアを抜けると、平原エリア。地図では平原エリアを超えて、その先にゴールがある。ゴールがそろそろ近くなっているようだ。
「少し妙な感じがするねぇ」
「妙って?」
「ここまで順調に来すぎている」
と、少し違和感を感じているアルテミス。
順調に来ているならいいことじゃねえの?とは思うけれど、たしかにここまで目立った妨害とかはない。
こんなすぐにゴールできるものなのだろうか。
「運営は二人でゴールといっている。分断するようなイベントがまだ起きていない……」
「あー」
「この先にあるのか、それとも……」
「それとも?」
「一人では到底倒せない強大な敵がいるか」
その時、天から何かが落ちてくる。
私たちの目の前にはものすごい筋肉の大男が立っていた。だが、緑色の皮膚をしており、白目をむいている。
魔物……? しかも強そうだ。
「ここにきてバトルか! よっしゃ」
「死ぬんじゃないぞ? ゼーレ君」
「わかってる。バトルは私の専門分野だ」
私は戦闘態勢を整える。
そのムキムキ男はバカでかい拳で私に殴りかかってきた。私はそのこぶしに黄金で武装した鉄球をぶつける。
二つの衝撃がぶつかり合い、風を生む。
「力つよいな」
「ウガアアアアア! テイコウするナァアアアアア!」
「これは力では勝負しちゃいけねえな」
私は作戦を変更する。
拳をかわし、まずは首元に一撃、鉄球をお見舞いした。ダメージはあるようだが、そこまで痛くもないダメージなのかぴんぴんしている。
大男は私の足をがしっとつかむ。
「ツカマエタ」
「トゲトゲ武装」
私は足をトゲトゲにする。
「イデェ!」
と、手が離される。
あっぶねぇ、トゲトゲ武装手に入れておいてよかったぜ。だがしかし、油断しちゃっていたな。私は手を合わせ、深く、深く息を吐く。
集中しろ。相手の戦いだけを今は考えろ。今はアルテミスの心配やこのイベントの先のことなどを考えるな。全部の思考をあいつ一人に集中しろ。
私は精神を研ぎ澄ます。
☆ ★ ☆ ★
圧倒的なバトルだ。
目の前ではゼーレ君があの大男を圧倒している。
「これが本来のゼーレ君の実力……? これじゃまるで不良というより……まさに戦闘兵器……?」
的確に攻撃をよけ、攻撃を与えている。
目は真剣な顔そのものだが、笑っている。だがしかし、その顔はどこか恐怖をも感じていた。きっと、本気でバトっている。
普段、我々が見ていたゼーレ君の戦闘はまだまだ初歩的なものだった。本気ではなかったのだと思わされる。
「私の賢さも大概だとは思っていたが……。ゼーレ君も同じだね。ゼーレ君の強さをここまで間近で見られていろいろと考えさせられるよ」
と、話していると。
ワグマ君がいつの間にか追いついてきていた。
「アルテミス、ここで……って、え?」
「ゼーレ……すごい本気だ……」
と、二人もゼーレ君の本気の戦いに圧倒されていた。
「……悪いことは言わない。私をキルしたら恨みはそっちにいくはずだよ」
「です、ね。あれは相手したくないです」
二人も水を差してはいけないということがわかったのか、すぐに剣を下した。
「普段、私たちが視ているゼーレとは違いますね……。これがゼーレの真の実力……? 普段、私たちが視ていたのはあれの数百倍も劣るようなもの……?」
「敵いそうにないなー……。あはは。もうゼーレと戦いたくないよ私!」
「ですね。もう喧嘩は吹っ掛けないようにしましょう」
二人は苦笑い。
「でも、たのしそー!」
「ですね。あれは本気で喧嘩を楽しんでますね」
「まぁ、彼女を満たす実力者はそうそういないだろうからねェ」
「そうですね。以前彼女が暴走した時も……誰一人とて止めることができませんでした」
それはそうだろう。
むしろ、今の彼女を止められるのは誰一人いないのだと思う。身体能力も恵まれすぎているので彼女自身、戦う才能はだれよりもある。
独学で学んできた喧嘩術、彼女自身のスペック……。どちらも最高点にある。
「ふふ、彼女はやっぱり面白い。彼女がいるおかげで私も退屈しないで済みそうだ」
私自身もスペックが高いからな。
ふふ、つまらなくない観察相手ができて心から嬉しいよ。




