ファンサはしっかりと
砂漠エリアを歩いていると、どこからかプレイヤーの気配を感じ取った。
私は振り返る。後ろに迫っている。戦闘態勢をとった時だった。
「うおおおおお! 猪突猛進ー--! しなきゃ死ぬぞー-----!」
「ちょ、馬鹿! だからアイテム探そうって言ったじゃない! あんたまじでバカ! 止まれこの暴走機関車!」
「うおおおお! かわいい子はっけーん! 俺は愛は大木のように大きい男、スガジュンといいます。付き合ってください!」
と、アルテミスの前に止まり、膝をついてプロポーズ。
私とアルテミスは思わず呆気に取られていた。というか、開口一番付き合ってくださいって……。
「……あの、キルしてくれていいですよ。こいつ馬鹿なので。私も気にしません」
「ふぅん。ただキルするってのは面白くないねぇ。悪いが、君はタイプじゃない。君にはまた良縁がめぐってくるだろう」
「ふられ……。何回目だ、俺がふられんのは……! 俺はこんなにもかっこいいのに!」
と、自画自賛しながら地面をたたいていた。
なんとなくむかつくが、あのぼさぼさ髪の男よりはましだとは思う。が。
「なんだこいつ……」
「戦闘狂のゼーレ君でもこういう変な相手には思考停止してしまうようだねぇ」
「アルテミスもだろ」
「面白いのがやってきたとは思っているよ。ただ、顔は格段とかっこよくはないのに自分でかっこいいっていうところは気に食わないがね」
と、会心の一撃を放った。その一撃が目の前の男……スガジュンという男に突き刺さる。
「スガジュンって名前もよくないんだよ。あの菅原様と一緒になろうと思うな」
「菅原様……。菅原 純也のことか」
「菅原様を呼び捨てにしないで!」
怒られた。
「菅原様はね! 神様のようなお方なの! あのやさしさ……! あの笑顔……! 皆の癒しになれる存在! ああ、菅原様……!」
と、うっとりした顔になる。
こいつもこいつならお前もお前だよ。
「大体、なんで私の愛するスガジュンって名前を付けるのよ! 今からでも作り直せ! ほら!」
「断る! スガジュンって名前にあやかれば俺だってモテる、はずさ!」
「痴話げんかはよそでやれよ。さすがにその喧嘩は好きじゃねえよ」
「っと、ごめんね。つい菅原様のことになると我を見失って。私はセリリっていいます。よろしくね!」
「ゼーレ。こっちがアルテミス」
「よろしく頼むよ。それに、菅原様……。君は菅原様が好きなんだねぇ」
「とっても! まずあの……」
と、長々しい話が始まってしまった。
ぺちゃくちゃと話され、時間が過ぎていく。アルテミスも、敵意を向けられているわけではないので言い出しづらいようだ。というか、私も言い出しづらい。なんか言い出せない雰囲気が出ている。
私たちがそのオタクトークに付き合わされている時だった。弓矢が私めがけて飛んでくる。
「追いついた」
「やっとだ……」
「……おい、あれがマジの菅原様だぞ」
「嘘いわないの! 菅原様がゲームなんて……菅原様だぁ!?」
と、ミナヅキのほうを見てマジ泣きし始めた。
「……ちょっとゼーレ。こっち来てくれない?」
と、ミナヅキが弓矢を下し、手招く。
「なにあれ。なんで泣いてんの?」
「お前のガチファン。敵意向けられてるわけじゃねえからキルもしづらかった。お前のことについて長々と話されたぜ」
「ナイス足止め!っていいたいけど……なんで僕がスガジュンだってばらすわけ? 他人の空似ってことで通せばいいじゃん」
「いや、本人を崇拝してるからな。そっちのほうが幸せになると思って」
「僕が女性嫌いってこと知ってるくせに?」
「知っててあえて」
「卑怯だろ」
「これも戦闘。盤外戦術」
さすがのミナヅキもファンの手前、私をキルできないようだ。幻滅されたらどうしようとか、ファンが減ったら困るとか考えてんだろうな。
「お前……」
「さっきから何話してんだよ。やるんだろミナヅキ」
「それなんだけど……。あれ、僕のガチ恋勢みたいなんだよね」
「……ゼーレお前」
「よし、ファンサしっかりしろよ! 私は行くからな!」
と、私はアルテミスの手を引っ張り、その場を後にする。
「握手してください! ああ、スクショ撮ってもいいですか? この前のライブとてもすごかったです! まじで! まじで、すごかったですぅううううううう!」
「あはは……。ありがと」
オタク、恐るべし。