嫌がらせの天才
私たちは先へと進む。
目的地にたどり着くためにはこういった障害を潜り抜けなくちゃいけないのだろう。
多分その障害は死に繋がるものもある。たとえば目の前の。
「これ……本当に行くのかい?」
「この蔦を使って……。コホン。あーああー……」
私は蔦を掴み、反対側の崖に行く。
タイミングよく蔦を離し、着地。まぁ、こんなもんだろう。ただ問題は……アルテミスが出来るかどうか。
離すタイミングをミスれば死ぬ。私はもう一回蔦を使って向こう岸に戻った。
「周り道を探した方が早いのではないだろうか」
「いや、こんなん用意すんだから周り道なんてのはねぇだろ」
「ふむ……。コツとかを教えてほしいねェ。こればかりは謎解きではなく、スポーツだから……。私の苦手とする分野だ」
「こんなん一回で出来る方がアレだろ。蔦に捕まるのはいいだろ? 離すタイミングが遅すぎてもだめ、早すぎてもダメだ。私は割と直感でやってるけどよ……」
「…………仕方ない。死んだらすまないねェ」
と、アルテミスが蔦をつかむ。そして、地面を思い切り蹴ってターザンの要領で向こう岸に。だがしかし。
離すのが遅すぎたのか、それとも離せなかったのか知らないがぶらんと空中にとどまってしまったのだった。
「た、助けてくれ!」
「ちっ、これ二人分耐えられねえだろ。ま、行くしかねえか! アルテミス! 私にタイミングよく掴まれよ!」
私は片手でツルを掴み、片手でアルテミスをつかもうと片手だけは取り残しておく。
空中でアルテミスをキャッチしぶん投げる。が、蔦が切れ、私は崖にぶつかった。
「うおおっ!」
落ちないように出っ張りに手を掴み、崖を上る。
「はぁ……。何とか渡れた……」
「すまない、ねぇ。ミスったらと思うと少し足がすくんでしまったのさ」
「気にすんな。一発で出来るとは思ってねぇよ」
ただ、どちらかが死んだらまたあそこから、だ。
ターザンなんかやらせんな。私は立ち上がり、先へ行こうと促すと、アルテミスが何やら奥の方を見ている。
「あれはプレイヤーだねェ」
「追いつかれるのもアレか。妨害、すんのか?」
「流石にさせてもらおうかな。この枝を利用して……ここら辺に立てておくだけで脅威になるだろうねェ」
「尖ってる枝だから刺さるわな」
「さ、先に行こうか」
私たちは歩き出すと、背後で。
「誰がこんなことしやがったァアアアアア!!」と叫ぶ声が聞こえる。
遠のいたということは手を離せなかったということ。手放せなかったら終わりだ。もう戻る術はない。
「お前ってとんでもなくてえげつねえこと平気でするよな……。私も流石に引くぞ」
「仲間だろうが簡単に手を出せる君がいえたことではないだろう? お互い様さ」
「まぁ…‥それを言われちゃ何も反論できねえ」
あそこで簡易的なトラップを仕掛けようとするあたり性格悪い。
ゴールすることより他人の妨害の方に知恵を使い過ぎではないだろうか。この調子だといずれ天罰が来るだろう。
私たちは先へと進む。
すると、今度は滝のようなものがあった。が、ものすごく高い。
洞窟も近くにあり、地図によれば洞窟ルートは長いし魔物が出るが、楽。
そして、崖上りルートは魔物が出なく、距離も短いが、崖を一から登ることになる。どちらがいいか。
「ま、どちらがいいか聞くと明白だよな」
「……まぁ、私を考えると洞窟ルートがいいんだろうねェ。だがしかし、敢えて崖上りを選ぼうか」
「大丈夫かよ」
「ゲームだからスタミナの心配だけはない。まぁ、何事も挑戦さ」
と、崖を掴み始めようとしたが。
「のまえに、妨害工作をしておこうか。洞窟の前に茂みからたくさんの木々を持ってきて……積む!」
「お前……」
「こっちに気づいても避けなければならないのが手間になるね。あとは……まぁ、馬鹿くらいしかかからないと思うが、地面に滝の方に矢印でも書いておくか」
と、木の棒で地面に矢印を書き、染料を何処かで拾ったのか赤く染める。
アルテミスはこれでよしと告げて、崖を登り始める。
「お前妨害工作ぬかりねえな……」
「こういうのは妨害してなんぼだからね。嫌がらせなら私の右に出るものはいないよ」
「敵に回したくねえなほんと……」
ここまで嫌がらせをするとは。




